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経済・株式・資産

第72回「ネット化による価値観の変化を巧みに捉えて高成長するリアルビジネスを構築」寿スピリッツ

深読み企業分析

寿スピリッツという菓子メーカーがある。同社のこの19年間の売上高成長率は年平均7.5%であるが、営業利益成長率は年平均19.1%に達する。この間2億円であった営業利益は今や60億円である。しかも、当時は2.1%であった営業利益率は、今や何と14.7%である。
 
 
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まさに高成長企業というにふさわしい成長性である。しかも、菓子メーカー、つまり食品業でこの高成長性、この収益性はこの時代には奇跡とも言えるようなものである。同社の成長のキーファクターは、ギフトという市場の特性を熟していることに加え、ネット化による当該市場の価値観の変化を巧みに捉えたことにある。
 
同社はほんの15年ほど前までは、どこの観光地にもあるお土産のお菓子を製造販売する会社であった。同社では全国各地のお土産菓子を米子の工場で生産し、当該地域のお土産店で販売していた。たとえば、山梨県であれば山梨のももやブドウを本社のある米子まで持ってきて、お菓子を作り、販売子会社を通じて山梨で販売していた。販売子会社は各地にあり、菓子箱の裏には販売子会社の住所だけが入る。まさか、買う人は米子で作っているとは思わず、裏面を見て販売会社の住所を確認し安心して買って行く。ただし、他のお土産菓子メーカーもこのような方法で行っているかどうかは不明である。
 
直感的にもわかるように、このようなビジネスモデルで大きく儲けるのは難しく、当時の経常利益率は2%にも満たないような状況であった。当時、現社長の川越氏は何とかこのビジネスを儲かるビジネスにしたいと悪戦苦闘を重ねていたところであった。儲からないのは、商品にブランドがないためということは明らかであった。全国各地の名だたるお土産名をあげるほどでもないが、赤福、萩の月、うなぎパイなどなど誰もが名前を聞いただけでピンとくるブランドがあればおそらく利益率は格段に異なることであろう。
 
そこで同社がとった手段は、とにかくブランド価値のあるお土産を確立させようというものであった。その後さまざまな地域、様々なロケーション、様々なチャネルでお菓子のブランドを立ち上げる中で、いくつかの柱になるブランドが育ってきた。
 
その筆頭が、チーズケーキ「ドゥーブルフロマージュ」で名を成した小樽に本拠を構えるルタオであった。なかなか簡単に言葉では表現できないが、ドゥーブルフロマージュはなめらかで、とろけるような口当たりのチーズケーキである。このように一つ柱ができたことで、ルタオはそのほかさまざまな商品に展開して行く。そして、このルタオを運営するケイシイシイだけで前期には売上高120億円、営業利益15.5億円を稼ぎ出すまでになった。ケイシイシイがルタオを立ち上げたのは1998年であるからゼロから始めて20年でこの規模の事業を作り上げたわけである。しかし、このひとつで終わらなかったところが同社のすごさである。
 
このケイシイシイで培ったノウハウをその後首都圏で展開したシュクレイは前期にはいよいよ売上高でケイシイシイを超え139億円となった。しかも営業利益は21億円と軽くケイシイシイを凌駕するまでになった。シュクレイの設立は2011年末であるから、第2弾は第1弾で20年かかった過程を8年で超えてしまったわけである。
 
シュクレイはまず東京駅のグランスタで「ザ・メープルマニア」というメープルフィナンシェを成功させ、瞬く間に東京駅で1、2位を争う商品に仕立て上げた。そして、このブランドを生かして、アイスクリームスタンドや高級ケーキ店などなど無数のサブブランドを展開している。
 
同社のケーキ、お菓子はギフトという位置づけになるが、ネット時代を迎えて、ギフトの価値観もかなり変わってきたとのこと。つまり、ギフトをもらった人が、すぐにスマホでそのギフトを検索し、ギフトのバックグラウンドや価格を知ることができるのである。つまり、特定の場所でしか買えないといことや価格が高いということがそのギフトの価値を高めるのである。いまどき、物流コストを中心にコストアップが続く中で、さまざまな商品は価格競争に巻き込まれて収益性が低下するのが一般的である。しかし、ギフトはそんな底辺の競争に巻き込まれることはなく、品質を伴えば、高価格こそが商品価値になる市場なのである。何と夢のような市場であることか
 
この辺りの価値観の変化を踏まえたうえで、同社では今年3月には銀座にGENDY銀座というプレミアム・キャラメル・ブランディ・ケーキの店をオープンした。何と、ケーキの値段は1個8,000円である。そういう商品だからこそ、わざわざ買いに来る人がいる。そんな時代の捉え方が実に同社の秀逸なところである。
 
有賀の眼
 
この10数年の同社のビジネス展開を眺めていると、とにかく打つ手、打つ手がずばずばはまるというように見える。しかし、これはギフトという市場をとことん追求していった結果なのだということを今回も思い知らされた気がする。
 
多くの企業が、コストアップと価格破壊のはざまで苦しむ中で、まさに同社の突き進んでいる道には、別世界が広がっているようにさえ感じられる。
 
実は、ギフト市場は、多くの企業が狙う市場ではあるが、なかなか同社のような規模まで成功する企業は少ない。典型的には全国の百貨店に展開している高級惣菜店のロック・フィールドが、もう10数年前から総菜のギフト化に取り組んでいる。しかし、なかなかこれが定着しない。
 
これを寿スピリッツが言うところのギフトとして成り立つひとつのキーワードから考えると問題点が明白になる。それは、ギフトは価値のあるものでなくてはならないが、それだけではだめで、そこに行かなければ買えないことによって、決定的に付加価値が高まるという点である。つまり、もらった方は、そこまで努力して買ってきてくれたという点を評価するのである。
 
それゆえ、同社では同じシュクレイが運営しながらも、店ごとにブランドを変え、異なる商品を販売しているのである。一方で、ロック・フィールドの惣菜は高級であり、もらえばうれしいが、多くの百貨店で買えるので、希少価値という点でギフトとしての価値が不足するということになる。
 
その意味で、この寿スピリッツという会社のビジネスモデルを研究することで、個々の企業にも大きなヒントが隠されているような気がするのである。
 

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