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経済・株式・資産

第124回「国産クラウド企業として急速に存在感を高める」さくらインターネット

深読み企業分析

インターネット時代の地味なインフラ提供企業として着実に歩んできたさくらインターネットが、昨年はいきなり表舞台に登場したような活躍を見せ始めた年であった。

第1弾が昨年6月に公表された経産省の「クラウドプログラム」の認定であった。これは、民間企業で初めて経済産業省から認定されたもので、経済安全保障推進法に基づく特定重要物資である「クラウドプログラム」の供給確保計画に基づくというもの。特に目を引くのは、これが生成AI向けの GPU クラウドサービスの提供であった点である。

この投資規模はとてつもなく大きなものであり、3年間でなんと130 億円規模の投資計画を経済産業省に申請し承認されており、うち今期においては 32 億円の投資を行うことを決定した。なお、このクラウドプログラムの認定により、投資額の 1/2 の助成を政府から受ける予定となっている。

当初、本 GPU クラウドサービスに関しては、2024 年1月以降に提供を開始する予定で、GPU にはNVIDIA社の「NVIDIA H100 Tensor コア GPU」を 2,000 基以上採用し、合計 2EFLOPS(エクサフロップス)の大規模クラウドインフラを整備予定となっていた。

ここまででもかなりの驚きであったが、実はこのサービスがAI開発には不可欠なインフラであることから、公表後に引き合いが殺到し、8月には更なる投資の増額が公表されている。当初は当期から3期間で130億円の投資と言っていたのであるが、引き合い殺到によって、今期は32億円のままであるが、来期早々にも78.5億円を追加投資し、2024年6月にはサービスを開始できるようにすることとしている。

これだけでもかなりの驚きであったが、さらに11月には、同社が日本政府からガバメントクラウドサービス提供事業者に選定されたのである。これは、2023年度にデジタル庁が募集した「ガバメントクラウド整備のためのクラウドサービス」(以下「ガバメントクラウド」)に認定されたものである。ただし、この認定は2025年度末までに技術要件をすべて満たすことを前提とした条件付きの認定ではあった。

しかし、同社以前のガバメントクラウドの採択企業の4社はすべて米国企業であり、国産クラウドの必要性が叫ばれる中で、わが国企業では同社が初の採択となった。この選定により、デジタル庁が進める「ガバメントクラウド整備事業に係る検証作業等」において「さくらのクラウド」が国産では初の対象となったのである。

2025年度末までに技術要件をすべて満たすことを前提とした条件付き認定ではあるが、同社によれば、2026年の政府/自治体向けIT市場の規模は2兆円と予想され、このうちガバメントクラウド市場の規模は2,500億円あると見ている。同社では必要要件の充足に向けて、今後、クラウドインフラストラクチャーサービスの開発強化と対応人員の拡充を加速させるとしている。

そして、将来的にはこのガバメントクラウドへの参入により、ブランディング強化とサービスの技術水準の向上を図ることで、国内パブリッククラウド市場においての存在感の向上を目指すとしている。

有賀の眼
この二つの案件の同社へのインパクトは巨大なものであることは間違いがない。それよりも何よりもどちらも国内において、IT関連で政府のビジネスを受託していた大手コンピュータメーカーやデータセンター事業者、クラウド事業者を差し置いて、同社が採択されたことに大きな驚きを感じるものである。

これは同社にとってもなかなか崩すことができなかった過去の実績主義や営業力の強さを乗り越えた点で大変化と言えるものである。一方で、これまではかたくなに前例主義を重んじていた政府が、純粋に技術力を評価して同社を選んだ点において、政府自体のスタンスにも大きな変化を感じるところである。

これまでネット企業の間では同社の評価は元来高いものであったが、政府のお墨付きを得たことで、これまでなかなか食い込めなかったエンタープライズにもアプローチしやすくなったことは、同社の今後のビジネスに多大なインパクトを与えることになろう。

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