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第16回 経営者には逆境にめげない精神的タフさが重要だということを痛感させる「トリドール」

深読み企業分析

トリドールという会社は何かと驚かされることの多い会社である。丸亀製麺を運営する同社は誰もが成熟市場と考えていた300円前後の立ち食いうどんの市場に参入し、10年もしないうちに売上高700億円、経常利益70億円のビジネスを作り上げてしまった。

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1食300円のうどん市場に、エンターテインメント性を付加して、新たな市場を作り上げたと言っていいだろう。これは、店舗に製麺機を持ち込んで、出来立て感を打ち出すという手法であった。

しかし、これだけを考えてみれば模倣も簡単であり、同社の成功に対して雨後の竹の子の如く同様の店舗が出現し、2010年後半から大失速することになる。しかし、わずか半年の失速で、その後大復活を遂げる。これは丸亀製麺の強みは目に見える製麺機の派手さだけではなく、根本的な部分での味へのこだわりがあったと考えられる。

同社では本場讃岐のうどんを研究し、小麦粉にもこだわって、その上で各店舗に製麺機を持ち込んで「できたて」の本物のうどんのおいしさを提供している。また、「かえし」も本物を追及している。「かえし」とは、しょうゆやみりんを煮きったものをじっくりと寝かせ、まろやかさを引き出したものであり、うどんつゆはかえしをだし汁とあわせて作る。

さらに、トッピングの天ぷらやおむすびもお客様の目の前で「揚げたて」「握りたて」にこだわっている。はっきり言って同社のかき揚げを食べてみるとわかるが、立ち食いうどんのかき揚げとは明らかに違って、パリパリしているかき揚げである。

一方で、やや脇が甘いところがある。昨年発覚したざるカビ問題である。店舗で使うざるにカビが生えていたのであるが、それを公表したのが遅すぎたということでたたかれ、売上高が大きく落ち込んだ。

その結果、業績も大きく悪化したため、それまで大量出店を続けていた戦略を大転換し、当面の出店をほぼゼロにして、業績の立て直しを宣言した。実際、今期の第1四半期の売上高はほとんど伸びなかったのであるが、営業、経常利益は二ケタ増を達成している。

そして、次に打った手が、TV全国放送によるCMで季節限定商品を宣伝することであった。これが大ヒットとなる。8月の第1弾が「肉盛りうどん」で、10月の第2弾が「タル鶏天ぶっかけうどん」である。

現時点で、月次データに反映しているのは「肉盛りうどん」だけであるが、2012年度以降、わずかにプラスになる月はあってもほとんどマイナスであった既存店の前年同月比が8月15.7%増、9月9.7%増と目を見張る伸びを示したのである。

もちろん、テレビCMはコストもかかるが、既存店が二けたも伸びれば十分おつりがくるほど、業績へのインパクトは極めて大きなものとなろう。またしても、同社の大復活から目が離せない状況である。


《有賀の眼》

同社を見ていて思うことは、とにかくやってみようという精神が旺盛なことである。一つ一つの戦略ももちろん重要だが、経営者にはやってダメなら、また考えようという精神的なタフさが本当に必要だと感じる。

最初に業績が大きく落ち込んだ時に、ある投資顧問のセミナーに社長に来て講演してもらったことがある。厳しい状況にもかかわらず、実に元気で、こうこうこうしてよくなりますと投資家に訴えていました。その話だけを聞くと、思わず買いたくなってしまうほどでした。

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