ニトリホールディングスは2019年2月期まで32期連続増収、増益を達成している。これは上場企業の中でも好業績の継続性において群を抜いたものである。
同社の強さの一つの特徴は、逆境に対する反発力であろう。同社は製品の90%を海外で生産し、輸入している。ということは当然のことながら、円高がプラス要因であり、円安はマイナス要因である。そのため、2012年末からのアベノミクスによる急速な円安は、同社にとっては経営の危機とまでは行かないが、少なくとも連続増益にとってはまさに危機であった。
しかし、結果的に2012年以降も一度も減益に陥らずに円安のマイナスを吸収してしまった。2012年2月期の平均為替レートは80円、そして2019年2月期の平均為替レートは112円であり、この間32円の円安であった。同社は1円の円安で仕入れコストが0.34%ほど上昇する。つまり、32円の円安は10%の原価率上昇要因となる。
同社の直近の売上高は6,080億円であるからこの間ざっと610億円のコストを削減しなければならないことになる。同社ではこれを製品の規格を根本から見直し、原材料、生産地、商品の配送形態、物流の仕組みまで事細かに見直すことで、円安のコストアップを吸収した。そして結果的には同社の歴史の中でも最大の逆風下でありながら、この7年間で年平均9.1%増収、8.2%営業増益を達成している。
まさに驚異的というしかない。
実は7年で32円の円安ということは、1年で4-5円となるが、このくらいの円安は前述の地道な施策の積み上げで吸収は可能である。しかし、年度、年度では為替が急変するケースもある。その場合、増収は問題ないとしても、増益達成にはかなり高いハードルとなる。1年間で最も円安が進んだのは、2013年2月期の83.3円が2014年2月期に100.8円と17.4円の円安になった時である。
さすがにいかに同社といえども1年でこれを吸収するのは無理である。ではどうしたのかということであるが、これは 似鳥会長の為替の相場観による予約である。実は市場の平均レートは83.3円、100.8円であったが、実際の決済レートは79.9円と91.9円であり、この間の為替変動は12円に納まっている。その結果、営業利益はかろうじて2.5%と増益を維持した。
2019年2月期は円高を予想していたが若干読みを間違えて、円高時にも予約をせず結果的に決済レートは110.2円と市場平均並みであった。しかし、今期はすでに下期分の予約は完了しているが、何と8月中に105.53円ですべて完了しているようである。これで今期は余裕で大幅な増益が見通せる状況となっている。
有賀の眼
同社のビジネスモデルは、海外でローコスト製造することに加え、国内では流通を効率化してすべて自社で行うことでローコスト化を達成している。しかも、それぞれのコスト見直しは毎年着実に積み上がる仕組みとなっている。もちろん、これらもただマニュアルに沿って行うものではなく、その仕組み自体の進化も伴ったものとしている。
一方で、相場に依存する為替は同社にとってもなかなか一筋縄ではいかない。しかし、それに対しては似鳥会長自らが陣頭指揮で、予約の決断を行っている。それが為替という変動要因を抱えながらも32期連続増収増益という偉業の達成に結び付いている。
経営者にとって、ビジネスに精通し、独自モデルを構築することはもちろん重要であるが、それに加えて相場観を養うことで、そのビジネスを力強くサポートできるということがよくわかる例ではなかろうか。