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経済・株式・資産

第78回「門外漢だからこそ可能になる型破りの経営」ビジョナリーホールディングス

深読み企業分析


 昨年12月にメガネスーパーを運営するビジョナリーホールディングスが、エムスリーへの第3者割当増資及び業務提携を発表した。同社とエムスリーの資本提携の中身は、エムスリーが第3社割り当て増資によって、約42億円を出資し、同社株の3分の1の株式を取得する。業務提携としては両社で5:5の出資で合弁会社を設立し、両社の強みを生かして、新規ビジネスを始めるというものである。
 
 今回の資本業務提携においては、同社の相手先のエムスリーの規模感が大きな意味を持つ。そこでここではまず、資本業務提携先のエムスリーについて解説しておく必要がある。それによって、エムスリーのすごさがわかると、今回の資本業務提携の重さが極めて理解しやすくなるからである。
 
 エムスリーは2000年にマッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーであった現社長の谷村格氏が、ソニーの出資を仰いで立ち上げた会社である。同氏はマッキンゼーにおいてヘルスケア業界を担当する中で、多くの医師が求めている「薬の効能や副作用の情報など医薬に関する最新のデータ」が短時間で提供される環境が構築されていない現実に問題意識を持ったことが起業のきっかけである。
 
 一方、我が国には製薬メーカーのMR(medical representative:医薬情報担当者)や医薬卸のMS(marketing specialist)が合計8万5千人もいて、医師との対比では3:1で、米国の7:1に対して極めて生産性の低い状態にあった。
 
 そこでこの両面の非効率を解決する手段として、IT技術によって医師のネットワークを構築し、求められている医薬の最新情報を共有できる仕組みを構築したのがエムスリーである。現時点でエムスリーの医療従事者専門サイト「m3.com」には、日本の医師の90%に相当する28万人以上が登録している。
 
 エムスリーはこの「m3.com」を運営するほか、医師の広範なネットワークを活用して製薬会社向けマーケティング支援サービスや治験支援サービスを行い、健康・医療等に関心がある一般生活者向けにも「AskDoctors」や「医療総合サイト QLife」等のサービス提供を行なっている。さらに昨今は AI を用いた診断ツールの開発、ゲノム検査の提供、脳梗塞リハビリ施設のグループ会社化など医薬品マーケティングに留まらないサービスの拡充、またそれらを複合的に組み合わせ医療疾患課題自体の解決を目指す「7Pプロジェクト」を推進している。さらに、日本のみならず米国、英国、フランス、中国、韓国、インドなど海外にも積極的に進出しており、全世界の医師の半数にあたる 550 万人の医師会員・調査パネルを基盤とした様々な事業を行っている。
 
 その結果、創業後20年にも満たない企業でありながら、すでに営業利益は300億円を超え、しかも時価総額は2兆円を上回る会社となっている。それに対して、同社の現時点の営業利益は10億円にも満たず、しかもこの資本業務提携公表時の時価総額は100億円にも満たない会社である。今回の資本業務提携はそんなものすごい会社から同社に白羽の矢が立ったものである。相手がこれほどまでの会社であるがゆえに、それだけでも今回の資本業務提携の価値が同社にとっていかにすごいものであるかがわかろう。
 
今回の資本業務提携は、双方にとって補完関係にある極めて効果的な資本業務提携である
 
 今回の資本業務提携は両社にとって補完関係にある極めて効果的な資本業務提携であると考えられる。しかも、これだけの良縁でありながら、世の中に未だかつてない誰も考えつかなかったビジネスモデルであるという点では、極めて痛快な話ではなかろうか。それでは具体的な業務提携の中身とその効果について解説するが、その前に改めて同社の強みを確認しておきたい。
 
 同社が全国に 400 近い店舗を有し、人口の 1 割近くを占める900 万人に上る CRM データを保有している点がエムスリーから見れば一つの魅力であるが、この部分に関して言えば、その程度は他のメガネやでも満たされる部分である。しかし、同社のビジネスモデルの他社との違いは、眼の健康寿命の延伸に繋がるアイケア商品およびサービスの強化をテーマに、アイケアサービスの根幹となる「トータルアイ検査」により、きめ細かく顧客の眼の状態や視距離等を調べる事で、用途や生活にあった最適なメガネ作りの提案に努めている点である。その結果、この独自のアイケアで存在感を高め 50 代以降の来店者を多く集めることに成功している。
 
 さらに言えば、老舗のメガネやはある部分同社と被る戦略の企業もあるが、この20年ほどのメガネ業界のディスカウント競争に巻き込まれ疲弊している会社が多い。しかも、そもそも経営スピードの点で、それらの老舗メガネやではエムスリーの眼鏡にかなうことは永遠にあり得ないものであろう。特にこの点が他のメガネやでは満たされない点であり、唯一無二の業務提携適合企業が同社であったということになる。
 
 さて、それではこの業務提携によって、それぞれにどんな効果が期待できるのであろうか。当然のことながら、まずは同社が扱うメガネ、コンタクトレンズ、補聴器などと医療機関との関係性が重要である。
 
 我が国においては高齢化が進んでいるものの、“視聴覚”の健康に関しては、適切な医療・ヘルスケアサービスがまだ十分に行き渡っていない可能性がある。例えば、白内障・緑内障・加齢黄斑変性症といった疾患の受診率はおよそ 1~2 割を下回るともいわれている。また、難聴もしくは難聴の可能性がある人でも、医療機関の受診や補聴器相談といったアクションを取る人は少なく、潜在的に視聴覚の健康や QOL に問題を抱えている人は我が国には多く存在すると考えられる。
 
 そこで、視聴覚を中心とした適切なヘルスケアサービスが適切なタイミングとコストで受けられる社会の実現を目指すところが、今回の業務提携のスタート地点である。そのために両社でJV を設立し、そのJVでまずは次世代型のフラッグシップ店舗の運営を行い、両社が持つ顧客基盤、ネットワーク、サービス群を組み合わせ、視聴覚の領域における潜在患者・疾患予備軍と、医療・ヘルスケアサービスとのタッチポイント創出につながる事業を展開する。さらに、将来的には JV を通して得た知見を同社の全店舗に拡大・展開して行くことになる。
 
 同社から見れば、医療機関からの顧客紹介が期待され、また同社が来店者に対して、医療機関を紹介することができる。さらに、エムスリーの商品であるAI を用いた診断ツールやゲノム検査を同社の顧客に紹介することもある。つまり、両社にとって顧客の窓口が大きく広がることになる関係性である。ただし、それ以上に同社にとって大きなことは、エムスリーとの業務提携によって、医療機関のお墨付きを得られた唯一のメガネやというブランド価値を手に入れることである。そしてそれによって、明らかに他のメガネやとの差別化ができることと言えよう。
 
有賀の眼
 
 さて、両社にとって極めて効果的な資本業務提携であるが、現時点の企業規模に対する影響度から言えば、圧倒的に同社へのインパクトが大きいものである。それではなぜそんな不釣り合いな関係が成り立ったのであろうか?それは両社の社長同士が同じ将来像を共有して、意気投合したことに他ならないと想像されるのである。
 
 まずは、お互いが全権を持つ社長であったことがあろう。エムスリーの谷村氏は紛れもなく創業社長であるが、同社の星崎氏も同社をほとんどゼロ、極論すればマイナスから企業の体をなすまでにした中興の祖的な経営者である。年齢も星崎氏の53歳、谷村氏が54歳と近く、しかも両者ともコンサル経験があるゆえ、コンサルの共通言語で話せて、意気投合したと考えられるわけである。
 
 加えて、同社以外のメガネやではおそらくこの提携は成り立たないという面で言えば、何と言っても両社の経営スピードがマッチしたという点であろう。とてもではないが、両社が一般的な感覚の経営者ではついて行けないほどの経営スピードである点も共感したのではないかと考えられる。IT企業であるエムスリーはそれも驚くほどではないが、同社の経営スピードはやってみようとした瞬間からやってみるほどのスピードであり、他のリアル企業のいやというほどのスピード感のなさには辟易しているような面がある。
 
 そのような意味も込めて、今回の両社の資本業務提携は、その日本のメガネ市場に与えるインパクトを今後とも注意深く見て行く価値があるものと位置付けられる。

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