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第103回「惜しげもなく捨てる経営が、成長の推進力」サイバーエージェント

深読み企業分析

サイバーエージェントはインターネット広告から始まって、ゲーム事業、FX事業での成功、Amebaブログで儲からないブログの収益化にも成功した。しかし、スマホが普及し始めるやいなや、スマホ時代の隆盛を予想して、儲かっているFX事業を売却し、Amebaブログも見放し、会社全体を完全にスマホ対応にシフトした。

そして、スマホ広告でもダントツの存在感を発揮しつつ、つい最近はゲーム事業で「ウマ娘」という大ヒットゲームを当てた。20年前にはわずか100億円の売上高であった同社は、20年後には6,700億円の売上を達成。2021年9月期には営業利益も1,000億円に乗せている。もちろん、直近の数字にはウマ娘の貢献が大きく、当面はその反動減があることから、一旦はこの水準がピークとはなろう。

同社の現時点の収益の柱は、祖業のインターネット広告とゲーム事業である。インターネット広告と言ってもまさにスマホ中心である。そして、これらの事業での稼ぎを惜しげもなくつぎ込んでいるのがインターネットTVのABEMAである。

ABEMAについては、開始6年経つが依然順調にダウンロード数を増やしており、第2四半期末では7,800万DLとなっている。ゼロからスタートしたABEMAではあるが、着実にテレビに匹敵するメディアとして育っていると言っていいであろう。すでに、テレビ機器の大半にABEMAのチャンネルがあるほどニューメディアとしての存在感を高めることに成功した。しかも、ABEMAは同時に20以上のチャンネルで放映できるものである。

ただし、同社ではABEMAに関してはまだまだ視聴者を獲得する先行投資期と位置付けており、収益化はもう少し先の話としている。しかし、急速に力を付けていることは間違いなく、投資できる金額もうなぎのぼりとなっている。2021年度にはMLBの放映権を獲得し、大谷が所属するエンゼルスの試合の生放送で視聴者を獲得した。

そして、いよいよ今年は更なる大勝負に打って出る。それは、カタールW-cupの全試合の放映権獲得である。これを全試合ABEMAにて無料で放映する。放映権だけでも百億円単位であり、毎回民放が費用負担でもめる規模である。同社はこの一大イベントの放映権獲得によって、さらに認知度アップ、視聴度アップを目指している。

このW-cupの放映に合わせて、テレビでは体験できなかった様々な視聴体験を提供する。まず、いつでも、どこでも見ることができるというネットの特性を最大限に打ち出す。さらに、マルチアングル、オリジナルコンテンツ、高品質な試合映像、安定した視聴環境、ダイジェスト、過去の試合映像、見逃し配信、追っかけ配信、マルチデバイス、コメント機能などネットならではの視聴体験を打ち出して、W-cup後も継続視聴を促す戦略である。

もちろん、向こう半年、これらの開発には多くの費用が掛かる。さらに、来期には数百億円レベルの放映権料が発生する。一方で、その分がすべて稼げるわけではない。よって、今期はそのコストとゲームの反動減で減益になるが、来期もおそらく減益予想となろう。しかし、同社のメディア市場における存在感はますます高まって行くと考えられる。

有賀の眼
「言うは易く行うは難し」はまさに同社の最大の強みと言えるこの捨てる経営です。いくらやっても儲からないので泣く泣く撤退する話は捨てるほどあります。それどこころか、大企業でさえ、儲からないのにいつまでもやり続けるケースはいくらでもあります。もちろん、それこそダメ会社の特徴ですが、ダメ会社ではないのにできない会社もあります。典型的には、セブン&アイがあれだけコンビニで儲かっているのに、いまだに全く儲からないイトーヨーカ堂が切れないのは極めて象徴的です。

それに対して、同社は戦略事業に人、もの、金を投じるために、利益が出ていたFX事業を売却し、利益が出始めて、しかもまだまだ成長途上にあったAmebaブログにも見切りをつけて、スマホ時代への対応に完全シフトして、見事トップ企業になっています。そして、今は、広告事業とゲーム事業の儲けを毎年100億円単位でABEMAにつぎ込んでいます。

まさに、この思い切りの良さが最大の強みということになりますが、そうは言ってもなかなか真似できないのではないでしょうか。

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