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社長業

第76回 ときに非合理的な判断が会社を守る

繁栄への着眼点 牟田太陽

※本コラムは2025年11月の繁栄への着眼点を掲載したものです。

 「ときに非合理的な判断が会社を守る」これを逆にいえば、「合理的な判断だけで動いていると会社がダメになる」ということだ。ここでいう合理的とは、数字重視・損得勘定・効率重視ということで、「理に合った」という意味ではない。

 ここにきて、数字重視・損得勘定・効率重視だけを考えて無駄を省き過ぎたことにより、「次の時代の価値づくり力」が低下してしまった会社を見かけるようになった。

 先日、無門塾でお客様の個別面談をしていた時のことだ。「ちょっと大きい案件が入ってきているんです」ということを言われた。話を聞いてみると想像の遥か上を行っていて気が遠くなりそうになった。「ええ!?御社、そんなに凄い技術持っているの!?」と驚く私に社長は、「はい。これを作れる技術を持っているのは、現在、うちともう一社だけです」とサラリと答えた。何でもかつては、大手が自社内で作っていたそうだ。それを2000年ごろからデフレ真っただ中になり、アウトソーシングなどという言葉が流行りだすと外部に委託するようになった。その方が効率がいいし、利益が出るからだ。

 そして25年ほど経つと、その技術を持っていた大手の社員たちはとっくに定年をむかえ会社からいなくなっていた。社内で生産しようにも時すでに遅し。大手企業はそんな空洞化が進んでいるという。

 自動車業界もそうではないかと思う。戦略として成功しているのはトヨタだけではないか。

 レクサスブランドを日本に持ち込んだ時、私は成功するわけがないと思っていた。案の定、最初は苦労したように見えた。しかし、トヨタで売れていたハイブランド車を次々にレクサスブランドに切り替えていった。半ば強引に。社長たちが好んで乗っていたセルシオはLSとなり、アリストはGSとなった。今では、高級路線はレクサス、大衆路線はトヨタと完全にすみわけができている。それができたのはトヨタだけだ。

 対して、日産も、ホンダも、わざわざ売れていた車を廃止しているようにしか見えない。日産は、シーマ、フーガ、ステージア、プリメーラ、マーチ、サニー、全て止めてしまった。ホンダは、レジェンド、インスパイア、インテグラ、これらも売れていたはずだが姿を消した。プレリュードは、24年ぶりに復活したが、「617万円から」という値段設定は、もはや若者が乗る車ではなくなった。かつては、「免許を取ったらホンダの〇〇に乗る」などと若者が憧れる車づくりをするのがホンダではなかったか。本田宗一郎氏の影が薄れているように感じる。

 本田技研は本田宗一郎氏、日産は鮎川義介氏たちがつくった会社だ。日産は厳密にいうとオーナー系ではないが、ホンダも日産も「エンジンのホンダ」「技術の日産」というアイデンティティーを持った会社だった。残念ながら、今はそれが見えない。

 これが前述した、無駄を省き過ぎることによる、「次の時代の価値づくり力」の低下ではないか。その原因は、学歴社会となり頭でっかちの社員たちが、目先の数字重視・損得勘定・効率重視だけを考えて経営をやってきた結果だ。

 こういった会社を見ていると、「創業者のにおい」を消してはいけないとつくづく感じる。「創業者のにおい」が薄れると会社は明後日の方向に行ってしまう。

※本コラムは2025年11月の繁栄への着眼点を掲載したものです。


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