例年2月~3月、生命保険の代理店会社は最大の繁忙期に入ります。年度末に生命保険に加入し、利益が出過ぎないようにしよう、という経営者が多いからです。そのお気持ちはよくわかります。では実際に、どのようなニーズが多いのか、代理店の経営者の方にお聞きすると、
「なんでもいいから、すぐに〇百万円くらいの保険に入りたい!」
というような声が多いそうです。
“目先の節税目的だけで、保険の中身とか、あとのことを、何も考えていないパターンが多いんですよね。”というわけです。
一方、節税したい経営者の声に応える保険販売員も、真のニーズがわかる方が少ないです。
「これで〇百万円くらいになります!」と、言われたまんまに提案します。
で、互いによく考えないまま、契約が成立してゆきます。そんな場合の多くは、半分損金タイプの商品になっています。全額損金タイプはもうなくなった、と思い込んでいる経営者が多いのです。生命保険に関しては、このようなミスマッチをよくお聞きするのです。
いわゆる逓増定期保険の全額損金タイプがなくなったのは、2008年です。当時、年度末に契約が激増している状況を、当局が目をつけ、網を敷いたのです。その印象が強く残っているのだと思います。しかし、今はまた、平準定期保険での、全額損金タイプの商品が、外資系だけでなく、国内生保からも、出ているのです。ニーズがあれば、サービスは生まれます。まさに、いたちごっこなのです。保険販売員の方が進めてきたら必ず、“それは全額損金タイプですか?”と、聞いてください。
ただし、入口だけ考えて、出口を考えないのも困ります。ほとんどの場合、年度末あたりでの生命保険加入は、節税が目的です。なので、返戻率が高いタイミングで解約することになります。解約すると、返戻金が入ります。その返戻金は特別利益となり、課税対象になります。何も手を打たなければ、結局は課税されて終わりです。これでは、生命保険に加入することで、利益発生を先送りしたものの、意味がありません。
だから、解約する際の出口をかんがえてほしいのです。返戻率が高いタイミングは、5年目~7年目など、一定の幅があります。加入時点でわかっているはずです。その幅のなかで、生命保険をいつ解約して利益を発生させるか、と同時に、その利益を相殺させるため、どのような費用を発生させるのか、を考えてほしいのです。役員の退職金、建物塗装などの高額の修繕費、記念式典などの高額出費、ロゴマークなどのデザイン見直し、等々。5年後~7年後あたりで、大きな費用発生を計画できることは、いくつもあるはずです。出口を考えるとは、このことです。生命保険は、利益の発生時期をコントロールできる、有効な節税アイテムなのです。入口の節税だけでなく、改めて利益発生する際の、出口対策をして初めて、生命保険を有効に活用した、と言えるのです。
一方、当然ながら、生命保険ですから、死亡時の保険機能もあります。死亡時には3億とか5億など、それなりにまとまった金額の死亡保険金が発生します。その保険金の受け取りに関しても、対策が必要です。一気に数億円もの特別利益が、突然発生するのです。もちろん、法人税を課税されます。5億円の死亡保険金が入ると、2億円弱は、法人税が発生します。税金のことなど詳しくない保険販売員だと、
“死亡時の保険金が5億なので、そのときには、5億の借金が返せますよ。”
などと、平気で言います。大間違いです。
ここで活用したいのが、死亡時保険金の「年金受け取り払い」です。
要は、保険金を分割して受け取る仕組みです。保険会社によって異なりますが、最高30年くらいまで、分割して受け取れます。
この「年金受け取り払い」は、契約後にだけできる、特約条項です。契約時には、できないのです。ただし、手続きは簡単で、必要事項を記入して捺印すれば、1日で完了します。
ところが、この「年金受け取り払い」のことを、知らない保険販売員がまた、多いのです。いわゆる、保険屋のおばちゃん、おっちゃん、のレベルでは、ほとんど知りません。売ることしか考えていないので、契約後にだけできる特約など、どうでもよいのです。
“そういうのは聞いたことがないですね。”
“うちではそれはないと思いますよ。”
などと、言ったりします。そんなことはありません。あるはずです。
“よく調べてください。”と、突き詰めてほしいのです。
最後に確認しておきたいのは、死亡時保険金は、支給手続きを申請してから受け取るものだ、ということです。被保険者が亡くなったからといって、勝手に振り込まれることは、ないのです。つまり、保険金をいつ受け取るのか、ある程度のコントロールできる幅がある、ということです。保険会社も、できることなら高額の支払いは先延ばしにしたいのです。かといって、放置しすぎだと、金融庁の審査で保険会社は指摘を受けることにもなります。まずは、保険金の受け取りは、ある程度先延ばしにすることができる、ということを、知っておいてほしいのです。それがわかっていれば、死亡時保険金が発生する、という不測の事態があり、「年金受け取り払い」にしていなくても、利益コントロールの判断が、冷静に下せるのです。