こんにちは、1位づくり戦略コンサルタント 佐藤元相です。
新規開拓の壁を突破するために
NCC株式会社は、長野県伊那市に本社を構え、工業用塗料のメーカーとして創業しました。現在では、医療機器事業も展開し、医療機器の洗浄・滅菌に関する製品とサービスを提供しています。
従業員120名のうち、医療機器事業部には6名が所属。「医療を止めない」をミッションに掲げ、病院や医療機関にとって欠かせないパートナーとなることを目指しています。
しかし、医療機器業界における新規開拓のハードルは極めて高いのが実情です。単に優れた製品を持っているだけでは、取引にはつながりません。医療従事者が求めるのは「信頼できるパートナー」であり、その信頼を築くことができなければ、競争の激しい市場で生き残ることは難しいのです。
NCCも例外ではなく、従来の展示会営業では次のような課題を抱えていました。
- 名刺交換はできても、その後の商談につながらない
- 引き合いカードを集めても、「とりあえず書いただけ」というケースが多い
- 後日アプローチしても、「興味はあるけど、今は検討していない」と断られる
このままでは、いくら展示会に出展しても、実際の成果につながらない。そこでNCCは、従来の「売り込み型営業」から「共感を生む営業」へと大きく方向転換しました。その中心にあるのが、ストーリーDM を活用したアプローチです。
これは、営業担当者自身のストーリーを伝え、お客様の共感を得ることで信頼関係を築く手法です。本コラムでは、NCCがこの手法をどのように活用し、どのような成果を上げたのかを詳しく紹介します。
新規開拓に悩む企業にとっても、ヒントとなる内容になるはずです。
ストーリーDMとは? ― お客様の共感を生む手法
1.ランチェスター戦略に基づく「接近戦」の考え方
NCCが採用したのは、「1対1のコミュニケーション」に重点を置くランチェスター戦略です。
大企業が大量の広告やブランド力で市場を支配する中、中小企業が戦うためには、「接近戦」が不可欠です。その手段として、ダイレクトメール(DM)や手書きのハガキなど、個別対応のアプローチを採用しました。
ストーリーDMは、単なる商品の案内ではありません。営業担当者自身の体験や価値観をストーリーとして伝え、「共感」を生むことを目的としています。
2.ストーリーDMの3つのポイント
- 売り込みをしない(商品の話は後半まで出さない)
- 共感を生むストーリーを語る(営業担当者の想いや経験を伝える)
- 連続性を持たせ、関心を高める(5回シリーズのDMを送る)
特に、最初の接点では「商品紹介」よりも「人間性」を伝えることが重要です。営業は、まず人間関係を築き、信頼を得ることが先 であり、商品説明はその後に続くべきなのです。
ストーリーDMの具体的な構成
NCCでは、展示会前に5回にわたるストーリーDMを送付しました。
第1弾:「自己紹介」
営業担当者の背景や価値観を語る内容。
例:「なぜこの仕事をしているのか」「どんな想いを持っているのか」
目的:「この人、面白そう」「会ってみたい」と思ってもらう
第2弾:「震災時のエピソード」
「災害時でも医療を止めない」というミッションを伝える実話。
例:「阪神淡路大震災のとき、病院が機器の洗浄で困っていた話」
目的:「この会社は社会的に意義のある仕事をしている」と共感してもらう
展示会当日の工夫 ― お客様との接点を増やす
1.週刊誌風のポスター
DMの内容をまとめた電車の中吊り広告のようなポスターを作成。
効果:「この会社、面白いな」と思わせ、来訪者を増やすことに成功。
2. 先生営業(QRコードでミニセミナーへ誘導)
展示会でQRコードを提示し、申し込みがあればミニセミナーを開催。
営業は敬遠されがちだが、専門家の話には耳を傾けたいというニーズがある。
効果:「営業マン」ではなく「専門家」としての立場を確立し、信頼を得る。
展示会後のフォロー ― 商談につなげる仕組み
1. お礼のはがき(手書き)
名刺交換したお客様に、個別に手書きのはがきを送付。
効果:「この会社は丁寧だ」と好印象を持ってもらう。
2. 継続的なDM配信(共感通信)
展示会後も定期的にストーリーDMを送り、関係を維持。
効果:「この会社のことをもっと知りたい」と思ってもらう。
3. QRコード付き無料デモ案内
展示会後に「無料で試せます」という案内を配布。
効果:実際に製品を試してもらい、商談へとつなげる。
得られた成果 ― 具体的な数字で見る変化
NCCの取り組みにより、以下の成果が得られました。
- 引き合い件数が3倍に増加(27件 → 85件)
- 「DMを見て来ました」という来場者が増加(興味を持って訪れる人が増えた)
- 成約率が向上(展示会からの商談成約数が従来比1.5倍)
- 医療機関との関係が深まり、長期的な取引が増加
この成功事例は、「売り込み型営業」ではなく、「共感を得る営業」にシフトすることで、大きな成果を生み出せる ことを示しています。
新規開拓に課題を抱える企業にとって、今後の営業戦略の参考になれば幸いです。