今月は7月でありますが、7月は税務署の新年度となります。
私は常々、税務調査においては、事前準備が大切である、と申し上げています。
このように申し上げていても、
中小企業の経営者は、なかなか準備なさらないのが実情です。
つい先日、私たちの顧問先のD社で税務調査が入りました。
D社の例をとって、税務調査の対策を改めてお示ししましょう。
①時期
先ほど、税務署の新年度は7月~、と申し上げました。
ということは、6月は異動前。
もっといえば、4月以降は、確定申告の時期も終わり、
税務署は、比較的気の抜けた時期になります。
D社には、当初4月1日~1週間、調査に入らせてほしい、と依頼がありました。
しかし、税務調査にはそれなりの準備が必要ですし、
また、調査の開始時期が6月末に近づけば近づくほど、
時間切れまでの時間が短くなって、会社に有利となります。
今回、D社はゴールデンウィーク明けに時期をずらしてもらいました。
結果的に、これがD社にプラスとなりました。
②期間
先ほどお話した調査時期はもちろん、調査日数も短くしてもらえることがあります。
税務署も余裕をもった調査をしたいため、1日くらい長めに設定しているのです。
ですので、「恐れ入りますが、その時期は多忙のため、調査日数を短くしていただけませんか?」と日数短縮の交渉を行います。
D社の場合も1日短くしてもらうことに成功しました。
経営者からすれば、税務調査は短ければ短いほど、精神衛生上は良いのです。
③期ズレ
今期の売上を先送りする、あるいは、来期の費用を今期に入れる、
つまり、利益の先送りを行うこと、これが期ズレと呼ばれるものです。
税務調査では、間違いなくこの期ズレがチェックされます。
つまり、期末付近の取引については、細心の注意を払う必要がある、
ということです。
D社の場合もご多分にもれず、
来期の費用(出張旅費)を、当期の費用として計上していました。
請求書を見れば、明らかに時期がズレているのです。
これは、顧問税理士の処理ミスということで、
税理士からも謝罪がありましたが、
どの業種でも期ズレは一番チェックされやすい、ということだけはご理解ください。
④エビデンス・ファースト
私は、税務対策をするならば、
しっかりとエビデンス(証拠書類)を残しなさい、と申し上げています。
エビデンスというのは、見積書、請求書、契約書、領収書、
あるいは、取引の記録を示す書類のことを指します。
中小企業は、このエビデンスの整理が非常に苦手です。
なぜかといえば、面倒くさいからです。
しかし、税務対策をして、キャッシュフローを良くしようと思えば、
エビデンスの整理は避けて通れません。
経営者の思い付きだけで処理することだけは、絶対に避けなければなりません。
D社で指摘されたものは、次の3点です。
(1)会長の父親への給与(年間約100万円×5年分)
(2)駐車場工事の修繕費処理(450万円)
(3)陳列棚の経費処理(65万円)
まず(1)については、まったくエビデンスが残っていませんでした。
勤務記録、仕事をしているという証拠も一切残っていませんでした。
完全にこちらの分が悪く、対応に頭を悩ませました。
非常勤の役員であれば、出勤の有無は関係ありませんが、
D社の場合は、単なる社員として給料を支払っていたのです。
こういう場合は、後出しジャンケンですが、その父親がいかに
D社にとって有益なアドバイスをしていたか、理論武装するしかありません。
次に(2)ですが、調査官が引っかかったのは、やはりエビデンスです。
具体的には、請求書に『新設工事』と書かれていたのです。
既存の設備を改修、更新したときに、資産計上するのか、
修繕費とするのか、これもよくあるテーマです。
『原状回復工事』や『維持管理工事』であれば、
修繕費に該当しますが、請求書の名目が『新設工事』となっていれば、
“資産計上すべき”と判断されてしまいます。
最後に(3)は、エビデンスである請求書が65万円となっていたため、
調査官から資産計上するように指導されました。
中小企業の場合は、1台あたり30万円未満の什器備品は、
経費計上できるという特例がありますので、
そこを意識して、請求書を複数に分けるといった対策が必要となるのです。
最終的に、私たちの指導により、
上記の(1)~(3)は全て税務署の主張をひっくり返すことができましたが、
D社は、改めてエビデンス・ファーストを痛感したのです。
私たち中小企業は、税務署からは、
「一族が甘い蜜を吸っている」という色眼鏡で見られています。
ですから、常々、エビデンスには細心の注意を払うことが何より重要なのです。
この意味では、中小企業の税務対策の神髄は、
『エビデンス・ファースト』なのです。