中小企業の資金繰りがショートして銀行借入をするのもたいへんだからということでオーナー社長みずからが会社に資金を貸し付けることはよくあります。ところが、この会社への貸付金が社長の死亡→相続にあたり大きな問題になります。
当座比率(注1)が高い会社、たとえば飲食業とかならいざしらず、ほとんどの中小企業では一時的に資金ショートするということはよくあります。それが累積して大きな金額になることも多いものです。これらの社長からの融資金はいっぺんに返済すると企業の資金繰りに影響を及ぼすことになります。
また、本来社長個人が購入すべき高級車を会社経費で購入したり、やはり本来は会社が所有するのはおかしいクルーザーなどを福利厚生目的で購入(注2)してその資金を社長からの貸付金でまかなう場合などは、その社長からの貸付は累積したままとなることが考えられます。
つまるところ、社長からの融資金は本当に一時的な資金ショートでもない限り、なかなか返済できません。さらにいえば税負担の調整のためにこの貸付金が心地よく働くこともあるのです。
では、この融資を社長存命中に処理して財務内容を良くしようと社長が考えるかというと必ずしもそうはなりません。その財務状態が心地よいものになってしまうからですが、さらにいえば融資金を資本金に振り替えるDES(注3)などにおいてもいくつもの税務上の制約があるからです。
たとえばDESにおいて社長からの融資金を株式化すれば、会社が債務超過の場合などは債務免除益が発生することがあります。つまり貸付金の時価(回収可能な金額)を判断根拠として、DESによって債務免除益が発生し課税されるのです。さらに大きな金額のDESを行なえば法人住民税の均等割分の増加、その他の税負担の増加なども発生することも考えられます。
かくして、無策のまま時間が経過し、社長が亡くなると、社長から会社への融資金は相続対象の財産となります。仮に会社にその金額を返済する余裕がなかったとしてもそれは相続財産として計上されるのです。
しかも相続税法上の資産の評価では、1000万円貸付していたとすれば、基本的には1,000万円の資産と評価されてしまいます。国税庁の相続税・贈与税関係基本通達(注4)では資産評価の例外も書かれていますが、赤字や債務超過の状態では単純にはだめのようです。
その会社で働いている事業承継者である長男が株式を相続し、かつ個人財産を相続したとすれば、その財産の中に旧社長から会社への融資金も含まれてしまいます。長男が「この会社の財務状態では返済できるわけはないんだから相続財産の価値としてはないに等しい」と主張しても税務当局はそんなことを認めてくれず、その分の相続税の負担が発生します。
事業承継者がいるなら、時間をかけて対策をしていかないと相続のときにたいへんなことになります。
注2:船舶(プレジャーボート)所有・運用にかかる費用を福利厚生の経費として損金にするためには一定の要件が必要になります。
注3: DESはDebt Equity Swapの略で、会社の債務を株式に転換することです。
注4: 相続税・贈与税関係基本通達(204 貸付金債権の評価)(205 貸付金債権等の元本価額の範囲)