中小企業は大きく3つのタイプに分けられると以前書きましたが、もう一度書いておくと、
ひとつめは経理入力が社内でできず、税理士に丸投げしているタイプの会社。
そして、二つめは「自計化(会社が日々の営業取引、経費の支払いなどを自社内で会計ソフトに入力すること)」しているがそのデータを生かすまでには至らない会社、
そして最後は自計化していてそのデータを経営に生かしている会社になります。
おおよそ6割から7割以上の企業は前2者に該当するように思いますが、経理や税務に対する認識があまい前2者のほうが、脱税について安易に考えているように思えることが多々あります。
たとえば、売上の除外という脱税手法は、経理を自計化していて、そのデータを生かしている企業ではやらないと思われます。
それをやった場合に、税務署にばれる確率がきわめて高いと始めからわかっているからです。
以前、売上の除外をしているだろうと思われる取引先を何回か見てきましたが、
継続的な取引のない会社からの受注について、請求書の振込口座欄に会社ではなく、社長の銀行口座が書かれている場合などの稚拙な手口が多く、支払う側の経理担当者でも直感的に売り上げの除外をしていると推測できるだろうなと感じました。
先方の会社の社長としては継続的な取引があるわけでもないので、税務署は脱税の事実をわからないだろうと思うのでしょうが、社長の口座も調査の対象となるのですぐにわかるものです。しかも売上の除外をしている会社の場合、同じ手口を複数の会社にしていることがあるため、脱税額はかなりの金額になることが多いものです。
会社の税務調査にきているのに、社長個人の銀行口座の開示を要求することが認められるのだろうかという疑問がわく人もいるでしょうが、国税庁:税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け) 問7に「認められる」と書かれています。
「法人税の調査において、その法人の代表者名義の個人預金について事業関連性が疑われる場合にその通帳の提示・提出を求めることは、法令上認められた質問検査等の範囲に含まれるものと考えられます」 (参照:国税庁:税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け) 問7)
この文面からわかるように、事業との関連性があると思われる口座は調べられるのです。たとえば社長が会社に貸付金を有している場合などです。また、あたりまえですが役員報酬が振り込まれる口座などは開示を要求される口座となるわけです。
経費の水増しの場合は、脱税をみつけるのはもっと簡単で、決算月だけを集中的に調べればぼろがでてきます。
なぜかというと脱税者は経済合理性にもとづいて脱税するからです。
利益率の変わらないような業種、同じものを同じように製造する、あるいは同じものを同じように売る会社は、経費の水増しが財務比率の変化に即現れるのでなにかやっているとバレてしまいますし、
オーダーメードのものを製造する会社の場合は、「利益が想像以上にでてしまう」とわかった段階で脱税工作に着手する例が多いので、「利益が想像以上にでてしまう」とわかった段階である決算月ということになり、その期間だけ徹底的に調べれば脱税工作が簡単にバレてしまうものなのです。
こんなにたやすくバレてしまうものなのに、脱税工作をする会社がなぜ後を絶たないかというと、税務上の利益と、じっさいの利益や資金繰りとの感覚が違っていて、財務、経理について中小企業経営者の実務的な感覚が追いつかないからと思うことが多々あります。
そしてなによりだいじなことは、これらの脱税工作は「故意による仮装行為、隠蔽行為」に該当し、 国税通則法68条(注1)に書かれている重加算税の法的要件に該当してしまうということです。
(注1)(重加算税)
国税通則法第六十八条
第六十五条第一項(過少申告加算税)の規定に該当する場合(修正申告書の提出が、その申告に係る国税についての調査があつたことにより 当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く。)において、
納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、
当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額 (その税額の計算の基礎となるべき事実で隠蔽し、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠蔽し、 又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、 当該基礎となるべき税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。