※本コラムは2021年10月の繁栄への着眼点を掲載したものです。
私たちは普段どのくらい気を付けて言葉を発しているだろうか。
20数年前のことだ。入協間もない頃、会長の牟田學から「江川ひろし先生の話し方教室は行った方がいい」と言われ、3日間の合宿研修を受けたことがあった。その直後に先生は亡くなられたので、最後の生徒と言っても過言ではないはずだ。
初日、壇上に立った江川先生は数枚の新聞の切り抜きを生徒に見せながら話を始めた。新聞の内容は、大半が「言われた一言にカッとなって親を殺してしまった」などという聞くに堪えないものだった。先日の白金高輪駅での硫酸事件もそうだろう。言った側は忘れてしまっても、言われた側はずっと心の奥でゆらゆらと炎を燻ぶらせることもある。恐ろしいことだ。
新聞を読み終わると先生は我々を見渡し、「何気なく言葉を使っていて、皆さん今までよく生きてこられましたね」とゆっくりと真剣な眼差しで言った。静まり返った教室で、全員の唾を飲み込む音だけが聞こえるようだった。言葉はそれほど重要なのだ。
たった一言で経営が変わることもある。
井上和弘先生の「たたむ・削る・変える」という言葉は、私にも深く刺さった。そして実際に多くの社長を救ってきた言葉だ。皆さんにも何かしら「経営を変えた一言」があるのではないか。そうであるなら、自分も社員に対して何らかの言葉を発するべきではないか。
東京2020オリンピック・パラリンピックが終了した。
賛否あった大会だったが、この状況の中でも限界のパフォーマンスを発揮しようとする選手の姿には多くの人が感動し涙した。私もその一人だ。しかし、それでも変わらない人もいる。
「感動とは与えるものではなく、感じていただくもの」とつくづく思う。受け手の感受性が全てなのだ。私のこの繁栄への着眼点もそうだ。言葉はどこまでいっても言葉でしかなく、そこに受け取り側の心が無ければ、ただの文字の羅列でしかない。だから教育が必要なのだ。
「何のために会社があるのか」「何故、新規開拓が必要なのか」「何故、値引きをしてはいけないのか」「何故、環境整備が必要なのか」「何故、お客様第一主義が必要なのか」「時間外労働について」「休日の電話について」「会社と自分の未来について」本気になって社員と向き合ったことがあるだろうか。
社長にとって言葉を磨くことは重要である。
何故なら全てが言葉によって繋がっているからだ。モノを企画するのも、モノを創造するのも、モノを売るのも、モノを買うのも全ては言葉を介して行われるのだ。その「言葉一つ一つ」を磨いてほしい。社長の言葉は、社員の人生を変えるものでなければいけない。
社員の人生が変われば、経営も変わってくる。そうすれば会社の未来が変わってくる。全てが繋がっていることを理解し、「たった一言」の重みを感じ、日々の経営をしてほしい。
※本コラムは2021年10月の繁栄への着眼点を掲載したものです。