大阪・関西万博、みなさんはいらっしゃいましたか。私は4月13日の開幕初日に一般客として行ってきました。その直後、4月18日にも再度訪れましたので、最初の1週間で2回、会場をめぐってきたことになります。
知りたかったのは混雑の状況か、値段がやけに高いといわれていた飲食のことを確かめたかったのか。いやそれらにも興味がなかったとはいいませんが、話はもっと単純で、各パビリオンの中身を見てみたかったのでした。
今回の万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」だといいます。デザインと聞くと、私はがぜん興味がわきます。
デザインというのは、もののかたちを描いたり、線を引いたりという話だけではない。そこには「皆がもやっとしている課題に対して、その課題のありかや解決策をはっきりと示し、その解決に向けた具体的な道筋をもように表す」という意味もあります。私自身も含めて、人は課題そのものがどこにあるのかについても意識できていないことが少なからずあります。デザインとは、そうした点にも踏み込んで明確化する作業、といい表すことができます。
今回の万博では、そうしたデザインをそれぞれのパビリオンから感じとることができるのか。そこに関心があったのでした。だから最初の1週間で2回、会場に足を運びました。
予約なしでも行列に並ぶのを我慢すれば入れるパビリオンはあります。
開幕初日に見たなかからひとつ挙げますと、ポルトガルのパビリオンは割合に小さな規模でありながら、海の環境保護がなぜこの先必要なのかという一点に照準を定めた展示内容で、私には面白く感じられました。スクリーンに流れる動画では海洋保護の意義を明快に伝えていました。
あとはマレーシアのパビリオン。民族衣装をまとったスタッフたちが何組も記念撮影に応じれくれ、また、その奥に続く空間では、マレーシアがどんな都市の姿を目指しているのか、それはどうしてなのかを説明しています。熱量が伝わっている構成でした。
いずれからも、デザインの意味(どんな課題がそこに横たわり、だからこそ何を目指すかの明示)を理解することができました。
最初の1週間ですべてのパビリオンを制覇するのは無理でしたから、今後も通い続けようと私は思っています。
国内勢のパビリオンでいいますと、大阪ヘルスケアパビリオンに私は惹かれました。
iPS細胞からできた心筋シートの実物展示や、ミライ人間洗濯機の実演(すぐ上の画像です)も興味をそそられましたし、それにもまして思わず立ち止まったのは、このパビリオンの一角にある、国内の中小企業やスタートアップの取り組みを紹介するブースでした。
ほんの小さな空間構成ですし、展示は短期間に入れ替わるようになっているのですが、開幕からの最初の8日間の期間限定だった内容からひとつお伝えさせてください(現在は出展を終えていて、別の展示内容になっています)。
私がこのブースにおける開幕からの1週間の展示でとりわけ面白いと感じたのは、兵庫県のブレインというシステム開発の企業による出展内容でした。
がん細胞の診断支援システムであり、人工知能(AI)を活用したものです。顕微鏡で撮った画像から短時間でがん細胞の存在を判定することで、病理医の診断を助けるシステムだといいます。
それがどうした、と思われるかもしれませんが、このシステム、同社が12年前に開発したパン専用のAIレジが元になっていると聞きました。お客がパンを乗せたトレイをレジに持っていくと、そのトレイをスキャンして、パンの種類と値段をまたたく間に弾き出すというレジで、同社によると世界初の商品だったらしい。
どうしてまた、パンのレジががん細胞の診断システムにつながるのか、私にも即座には理解できなかった。同社の社長にその場で話を聞いてみました。
このパン専用AIレジの存在を知った1人の病理医が、同社に突然、電話をかけてきたそうです。その病理医が話すには「パンが、がん細胞に見えました」というのでした。全く関連のなさそうな両者が実は似ていると…。ならば、と、同社はがん細胞診断支援システムの共同開発に踏み切ります。
そして現在では一部の病院でテスト運用を始めるところまでこぎ着けています。なんといいますか、商品開発のきっかけというのはどこにあるかわからないものだなあと感じると同時に、これこそがデザインではないかとも思いました。
このシステムが広く社内に浸透すれば、がん細胞の診断で日々頑張っている病理医の負担を相当に減らせる、と同社はいいます。病理医のみなさんがなかば諦めていた部分に同社は斬り込むかたちで「このシステムを用いれば、毎日の負担が軽減できて、診断の仕事に役立ちます」とまさに明示した。こういう事例もまた、未来社会に向けたデザインそのものだろう、と私はとても納得した次第です。