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第39話 なぜ売れたか、そこが大事かも

北村森の「今月のヒット商品」

 今年4月、マスクが不足気味で多くの人が困っていた時期、こんな商品が登場しました。

 

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 絹でつくられたマスクなんです。福井県坂井市の町工場、小杉織物の手になる商品でした。第一号商品の値段は1650円。絹だけに安くはありません。でも、たちまち売れました。最初は1日当たりの生産量は50枚がやっと。でも、注文が殺到したために生産体制を強化して、すぐさま1日500枚つくれるように……。そして現在では1日8000枚体制を整えている。しかも、それだけ生産しているのに、すべて捌けていると聞きます。

 

 着け心地は抜群、と言っていいでしょう。とりわけ敏感肌の人には助かることと思います。また、風合いもいいので、ちょっと大げさに表現すれば、仕立てのいい衣類を着込むような高揚感もちょっと味わえます。

 

 数あるマスク商品からどうしてこのマスクの話を? みなさんきっと知っていらっしゃるマスクと思うからです。7月中旬、将棋の藤井聡太さんが大事な勝負の場で着けていたマスクです。すると、ネットなどでたちまち「あのマスクって、どこのメーカーのものか」と話題になって、さらに注文が殺到したのは事実。

 

 「ああ、著名な人が手にしたという情報が拡散すれば、やっぱり商品はヒットするという話を今回はするのね」……。いや、そうじゃないんです。

 

 確かに、藤井さん効果で小杉織物の絹マスクが7月半ばから売れ行き上昇したのは間違いではありませんが、前述しましたように、もうそれ以前からヒットしているんです。

 

 私が今回お伝えしたいのはどういうことかと言いますと、むしろ「著名人頼みで商品を売ることを最初から狙うのは、本筋にたがうのではないか」という話です。

 

 だって、藤井聡太さんは、このマスクを宣伝するために着けたわけでは全くないし、また、当の小杉織物も、藤井さんに着けてもらおうと働きかけてなどいませんでした。同社に下心など決してなかった。藤井さんの映像を見て、びっくりしたというくらいですからね。あくまでそれは、小杉織物にとって“ごほうび”のようなエピソードであったにすぎなかった、と私は感じています。

 

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 小杉織物はもともと浴衣の帯が主力でした。国内シェアでトップです。ところが、このコロナ禍ですから、注文がパタリと止まってしまい、3月末に休業を余儀なくされたそうです。100人の従業員が働く場を失った。

 

 でも、社長は、従業員に休業すると話した翌日に、すぐ立ち上がりました。社内に余っている素材だけを使ってマスクを作れないか、と……。絹の生地はあります。帯の注文がないから、たくさん余っているほどでした。マスクの中に入れるワイヤーは帯づくりで使っていたから、これもちゃんとある。

 

 じゃあ、耳にかける紐はどうする? 子供用のへこ帯をもとに工場で作ってしまった。上の画像がそうです。本来、こんな細い紐をつくるための機械じゃないんですけれど、思い切って幅5ミリの紐をわざわざこの機会で製造した。

 

 で、休業した翌日にわずか6時間で試作を完成させて、そのたった1枚の試作マスクを手に、京都の問屋に向かいました。

 

 このスピードこそが、この町工場の真骨頂であり、マスクがヒットした主因だったのだろうと、私は感じています。

 

 ではなぜ、そこまでのスピードをもって試作を急いだのか。これは申し上げるまでもありませんね。従業員が働く場を再び確保するための、必死の行動だったわけです。

 

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 京都の問屋がすぐさま呼応し、小杉織物にはたちまち注文が入りました。これで従業員が働く場所を取り戻せました。マスクの原材料不足だった時期に社長がすぐ行動したからこそのヒットだと、私は分析しています。

 

 藤井聡太さんの件は、先ほど触れましたように、クチコミマーケティングを狙ったわけでは決してないんですね。あくまで偶然が生んだ賜物。そこが重要と思います。

 

 私、よく全国の企業から「影響力のある有名人を使って、この商品を売れませんか」と相談を受けますけれど、それってやっぱり、下心が透けて見えてしまって、上手い具合に成功するとは、どうしても思えません。少なくとも、企業側がハナから狙って動くような話ではないと感じます。

 

 実際、今回の絹のマスクの場合、藤井聡太さんがこのマスクを着けた映像を小杉織物の皆さんが目にしたとき、「これでマスクがまた売れる」とは思わなかったそうです。「大事な勝負の場でうちのマスクを着けてくれたなんて」という感激だけだったらしい。クチコミを当てにしたわけではなかったことを、まさに示す話ですね。

 

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