夜の東京駅丸の内駅舎をライトで飾り、一躍有名になったプロジェクションマッピング。実物やYouTubeで公開されている動画などで、ご覧になった方も多いのではないでしょうか?
見物客は実在する建物が変幻自在に姿を変える様に驚き、未来を感じた事でしょう。今後も、アート作品や屋外広告に利用される機会が増え、話題になりそうです。
そこで今回は、この映像技術である「プロジェクションマッピング」を取り上げ、華やかさの裏に隠された技術内容、魅力や今後について、幅広くご紹介します。
■プロジェクションマッピングの仕組み
プロジェクションマッピングは、実在する静止物にプロジェクターで映像を投射し、あたかも対象物が変化したかのように見せる、錯視的、仮想的な映像表現手法と言えます。対象物は丸の内駅舎のように大きな建造物から、屋内の壁面や家具など比較的小さなものまで、何でも構いません。
ポイントは、投射する対象が、映画のように平面のスクリーンではなく、立体的な構造物である点で、投射(Projection)の際は、図柄が対象物の形や凹凸にピッタリと位置合わせ(Mapping)する必要があります。位置を合わせて投射するのがミソなので、Projection Mappingと言う訳です。
*手元の素材で作例を一つ。発泡スチロール性のマネキンヘッドに顔写真を投影すると、こんな感じに。動画を投影すれば、表情を動かしたり、違う人物にすり替えたりと、アイデア次第で無限大の楽しみ方ができます。
■ 品質の肝は「位置合わせ」
作品の評価は、投射される映像作品の創造性や完成度によりますが、それを支える基本品質の「肝」は「位置合わせ」にあると言えるでしょう。例えば丸の内駅舎の場合、全体の形に加え、細部に凹凸があり、さらに色の違う窓やアクセントに使われている白い煉瓦などがあります。少しでもズレると、映像がはみ出したり、狙った色が表現できなくなるのです。
この位置合わせは、制作時に投射シミュレーションを行いながら図柄を調整するのはもちろん、実際に現場でも投射して、微調整を繰り返します。丸の内駅舎の投射では、煉瓦1つ分のズレも無いくらい、精密に位置合わせが行われたようで、これが作品の完成度を押し上げ、高い評価を支えたと言っても過言ではないでしょう。
■ 壁が白いとは限らない。色の調整。
「プロジェクションマッピング」の名の通り、位置合わせが最大の肝ですが、実は色の調整も見栄えに大きく影響します。
例えば、映画館のスクリーンは白色で、投射したカラー映像はそのまま素直な色彩で表現できます。一方、実在する建物に投射するプロジェクションマッピングの場合、建物が白とは限りません。丸の内駅舎の場合、レンガの赤褐色を主体に、白色のレンガ部分、窓などがあります。赤色系であるレンガ部分は青色や緑色の光を吸収し易く、大きな図柄を赤色と白色のレンガに跨って投射すると、見物客は色ムラを感じてしまいます。場合によっては図柄が分かり難くなる事もあるでしょう。同作品では、制作時にこの「色ムラ」を軽減するよう、制作者が感覚を頼りに調整を繰り返したそうです。動きのある映像に調整を施すには、膨大な労力と時間が掛かかるのも想像に難くありません。
■ プロジェクションマッピングの魅力
プロジェクションマッピングの魅力はリアルとバーチャルの融合、つまり現実にはあり得ない「非日常」の体験にあります。独創性やグラフィクスの美しさもポイントです。さらに、建物に投射する大型作品の場合、作品が建物毎に制作された特別な一点モノである事や、映像で表現されるストーリーが建物に由来していると、観客はより深く惹き付けられるでしょう。
技術に興味を持っている人々には、今回ご紹介した位置合わせや色調整の精密さ、膨大な労力と時間を費やした壮大さにも、想いを馳せるかもしれません。
プロジェクションマッピングには、実に様々な魅力が詰まっているのです。
■ プロジェクションマッピングの今後
認知度の高まったプロジェクションマッピングは、今後もイベントや広告で多用される事になりそうです。特に、ビルの壁面を利用した広告を目にする機会は増える事でしょう。
今後は、プロジェクションマッピングが映える壁の色味や凹凸を考慮した建物まで登場するかもしれませんね。