かつて日本の高度経済成長を支えたエレクトロニクス産業ですが、今では各社とも苦境に立たされている様子が、毎日のように報道されています。その要因の1つと考えられるのが、家電のコモディティー化。歴史を振り返ってみましょう。
1950年代後半、白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫が三種の神器と呼ばれ、生活を一変させました。テレビは今まで見ることのできなかった遠くの風景を映し出し、洗濯機は当時の主婦を重労働から解放して時間的なゆとりも生みだし、冷蔵庫は食材の長期保管を可能にしたのです。発明とも言える新しい価値に対し、人々は給料何ヶ月分もの大枚を叩いてでも手に入れたかった時代です。その後も日本企業は、オーディオやパソコンなどのエレクトロニクス製品で、世界に存在感を示し続けました。
対する現在は、あらゆる家電が高性能で便利に進化を続けていますが、発明的な新家電は登場していません。それぞれの家電が高度化し、付加価値で大きな差別化をできない状況に到達しているのです。これを家電のコモディティー化と呼んでいます。コモディティー化すると、競争の軸は価格に移り、新興国の台頭もあって、日本メーカーは体力を失って行くことになります。
こうして歴史を振り返ると、日本のエレクトロニクス産業が再び輝きを取り戻すには、かつての三種の神器にように、新しい価値の創出が鍵となりそうです。
■復活なるか!ソニーの新戦略「Life Space UX」
ソニーはかつて、多くの新しい価値を生み出してきました。高画質ブラウン管テレビ、オーディオ、ビデオレコーダーなどのAV機器は、生活必需品ではないのにも関わらず、人々はこぞって買い求めました。生活の基盤が整ってゆとりが生まれると、人々の関心は、生活必需品から、“趣味”に移り、ソニーはタイミング良く、当時の人々にとって新しい価値を提供したのです。
ソニー製品の中でも、特に印象深いのは、携帯型カセットプレーヤー「Walkman」。世界で大ヒットし、電子機器という枠に収まらず、屋外でも音楽を聞くという新しいライフスタイルが生まれました。
そんなソニーも、近年はコモディティー化に苦しんできましたが、ようやく復活の兆しが見えてきました。それは、技術や機器ではなく、ユーザー体験を切り口に新しい価値を生み出そうとする「Life Space UX」という取り組みです。同社平井一夫社長直轄のプロジェクトで、既存の機器ジャンルに囚われず、ソニーが持つ技術を横断的に活用するという点でも、新しい動きと言えます。
既に4製品を発売していますが、ここでは一例として、「グラスサウンドスピーカー」をご紹介しましょう。
■「グラスサウンドスピーカー」(LSPX-S1)
機能としてはスピーカーですが、見た目はオブジェのような佇まい。また、温かみのある装飾的な光を放つ機能を備えています。価格は約8万円と、一般的なミニコンポよりも高価ながら、人気商品となっています。その理由は、ソニーの狙い通り、“オーディオ機器”の枠を超えて、より多くの人々の心に響いたからに違いありません。
往年のオーディオファンには奇抜に映りそうですが、多くの人々にとって、音楽や素晴らしい音で空間が満たすのがゴールであって、“オーディオ機器”その物が欲しい時代ではなくなったのです。
とは言え、音に関わる技術もソニーならでは。有機ガラス管を振動させるという新しい発音技術を応用。弦楽器や声などの表現が生々しく、しかも360°、さらに遠くまで届きます。
実際に試聴しましたが、従来のステレオのように、聴取位置が制限されず、部屋のどこにいても、良い音が楽しめました。また、スピーカーの近くでもうるさく感じず、遠くまでよく聞こえると、飲食店などからの引き合いも多いそうです。職場やビジネスの場でも、工夫次第で面白い使い方ができそうです。
■さいごに
エレクトロニクス業界は、コモディティー化した家電の次のマーケットとして、今後、急激な需要増加が見込まれている、自動運転/電気自動車、ドローン、医療の分野に目を付けています。しかし、数年後には、やはりコモディティー化するでしょう。
社会に必要なモノを現実的なコストで開発することは有意義ですが、デジタル化で競争が激しくなったいま、生き残りには、「新しい価値の創出」を継続する必要がありそうです。ソニーの「Life Space UX」には、そんな価値創造と復活の兆しを感じずにはいれません。
ソニーの設立趣意書には「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」という一文が含まれています。作り手も、使う側もワクワクする、新しい価値想像型の新製品に期待したいものです!
【製品紹介】
メーカー: ソニー
製品名: グラスサウンドスピーカー
型名: LSPX-S1
製品URL: http://www.sony.jp/active-speaker/products/LSPX-S1/