menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

情報を制するものが勝利を手にする(8)
ハンガリー指導部の大胆な挑戦

指導者たる者かくあるべし

 ソ連共産党書記長のゴルバチョフを迎えて開かれた東独建国40周年の記念式典には、ソ連指導下にあった東欧各国の指導者が大挙して出席した。

 しかし、東独と国境を接するハンガリー指導部からの代表団の姿はない。ベルリンで式典が開催された1989年10月7日、ハンガリーの首都ブダペストでは、国家を主導する共産党(社会主義労働者党)が国の進路を決める党大会を開催していたのだ。

 東欧の指導者たちに「改革」「民主化」を迫るゴルバチョフの主張には矛盾があった。「改革を本気で推進するなら、共産党の一党独裁を打破する必要がある。党と国家を分離しないとできない」と、ハンガリー首相ネーメトは、その矛盾を見抜いていた。しかし、ゴルバチョフにはそこまでの考えはない。一党独裁下での改革を要請していた。「問題はタイミングだ」とネーメトは党内改革派に支えられて首相に就いて以来、慎重に反逆の機会を探っていた。

 ハンガリーは、人口1000万人に満たない小国だが、西側のオーストリアと国境を接した東西冷戦の最前線にある。冷戦初期の1956年10月に民主化を求めて大衆が蜂起した「ハンガリー動乱」は、ソ連軍の介入で蹂躙される苦い経験を持つ。1968年にはチェコスロバキアの民主化運動もソ連軍戦車の突入で踏み潰されている。

 「われわれが一党独裁を否定すればゴルバチョフはどう出るか」。ハンガリー指導部は、モスクワの反応を探ることにした。

 ハンガリー政府が取った行動は実に大胆なものだった。1989年5月2日、西隣りのオーストリアとの国境に設置された電流の通じるフェンスを「今後、維持しないことにした」と発表する。あくまで「財政上の都合」として政治色を消しながらだ。

 そして、内外の報道陣の前で国境警備装置のスイッチを切って見せる。ハンガリー兵士たちがフェンスに殺到して、鉄条網を次々とカッターで切断、大きな束に丸めて捨てはじめた。ベルリンの壁が崩壊する半年前のこと。東西ヨーロッパを分断してきた“鉄のカーテン”に穴が開いた歴史的瞬間である。

 モスクワが黙っているかどうかのテストだった。「ゴルバチョフは動かない」。ネーメトには自信があった。(次回に続く)

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

参考文献

『ゴルバチョフが語る冷戦終結の真実と21世紀の危機』山内聡彦・NHK取材班著 NHK出版新書
『1989世界を変えた年』マイケル・マイヤー著 早良哲夫訳 作品社
『1989年 現代史最大の転換点を検証する』竹内修司著 平凡社新書
『東欧革命—権力の内側で何が起きたか』三浦元博、山崎博康著 岩波新書

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

情報を制するものが勝利を手にする(7)一歩遅れたものは、その責めを一生背負う前のページ

情報を制するものが勝利を手にする(9)モスクワの論理を逆手にとるハンガリー次のページ

関連記事

  1. 情報を制するものが勝利を手にする(12)
    日清講和と李鴻章

  2. 国のかたち、組織のかたち(22) 古代アテネの民主政(下)

  3. 中国史に学ぶ(10) 人材獲得術「先ず隗より始めよ」とは

最新の経営コラム

  1. 【昭和の大経営者】ソニー創業者・井深大の肉声

  2. 「生成AIを経営にどう活かすか」池田朋弘氏

  3. 朝礼・会議での「社長の3分間スピーチ」ネタ帳(2024年11月20日号)

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 人間学・古典

    第二十八話「二卵を以て干城の将を棄つ」
  2. 経済・株式・資産

    第64話 所有不動産に仮差押・差押をされたら…(1)
  3. 社長業

    第26回 いまこの時期に幹部に求めるもの
  4. 健康

    第62回 登別温泉(北海道) 5つの泉質と35の浴槽が楽しめる「絶景温泉」
  5. 社長業

    Vol.1 日本上陸「取引信用(貸し倒れ)保険」-ご存知ですか?-
keyboard_arrow_up