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ナンバー2の心得(4) 「血は水よりも濃い」と知れ

指導者たる者かくあるべし

 室町幕府を開いた足利尊氏と弟の足利直義の間の主導権争いに巻き込まれた尊氏の忠臣である高師直(こうの・もろなお)は、讒言(ざんげん)によってナンバー2の執事の立場を追われたが、反撃の機会を狙っていた。

 そして立ち上がる。失脚から二か月後、兵五万を率いて宿敵の直義邸を取り囲む。直義の軍勢はわずか7千。直義は、将軍尊氏邸に逃げ込む。というよりクーデターに驚いた尊氏が弟直義を匿ったのだ。

 元はと言えば、将軍家足利一門である兄弟間の権力闘争である。尊氏に直義を亡き者にする積もりはない。将軍邸を包囲した高師直は直義追放を要求する。

 尊氏、直義兄弟は急迫する事態に切腹も覚悟したという。高師直に野心があったなら、足利の天下はここで潰えて、後の歴史は書き換わっていたかもしれないが、師直は、「直義の公職引退・出家」という尊氏の提案をのみ、兵を引いた。

 部門のナンバー2として師直が望んだのは、主家の尊氏・嫡男の義詮(よしあきら)への権力の集中と政治の安定である。ただ主君に尽くすということであった。

 しかし、後で見るように、主君兄弟のなれ合いの闘争の中で、一途の忠誠心は裏切られ切り捨てられる。血は水よりも濃い。下手に兄弟身内の抗争に首を突っ込んだばかりに、双方から邪魔者扱いされることになる。

 さて、その後の草創期の幕府政権。引退したはずの直義は、兄弟で協力して打倒した後醍醐天皇の流れを組む南朝方と組み、幕府に刃向かい挙兵する。直義が養子に引き取った尊氏の息子の直冬は九州を拠点に幕府軍に抵抗する。天下は「昨日の味方が今日の敵」の様相で乱れに乱れる(観応の擾乱)。

 各地での激戦の末、尊氏・義詮―高師直軍は、摂津・打出浜の決戦で直義軍に敗れる。そして、尊氏は“番頭”師直の出家を条件に、直義と和解する。

 師直は、京へ戻る尊氏に同行を願い出たが拒否される。武装を解かれて主君から遅れて京へ向かう師直は武庫川のあたりで直義側近の軍勢に襲われて一族郎党みな首をはねられた。

 一説では、師直一族の殺害は、尊氏の指示だったという。忠臣の首と引き換えに尊氏は生き延びた。

 「師直の死は直義の約束違反で残念」と尊氏が嘆いたとされる太平記の記述は、空々しい。

 そして尊氏は、復権に向けて着々と策を練るのだった。

 義理も仁義もあったものではない。権力欲とは恐ろしいものである。(この項、次回に続く)

 

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

 参考文献

『太平記1-3(日本古典文学大系)』岩波書店
『高師直』亀田俊和著 吉川弘文館
『足利尊氏と直義』峰岸純夫著 吉川弘文館
『南北朝の動乱(日本の歴史9)』佐藤進一著 中公文庫

 

 

 

 

 

 

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