10月5日に横浜港を出発して9日までの5日間、日本経団連主催の第45回洋上研修に講師として参加しておりました。
全日程は12日までなのですが、私は寄港地である韓国の仁川(インチョン)にて失礼して、飛行機で一足先に帰国いたしました。
●「ジャーン」というドラの音とテープによるお見送りは、
飛行機では味わえない感動があります。
今年は例年よりも少ないとはいえ、それでも59社、140名もの管理・監督者の方々が北は北海道、南は沖縄と全国から参加され、船内で熱い議論を交わされました。
テーマは「強い組織・熱い職場をつくる」と私が大好きな内容で、参加の皆さんの熱い議論を聞きながら、私もかなり熱く燃えてしまいました。
人間には二ヶ所、火が付く場所があります。一ヶ所は尻、もう一ヶ所は心です。尻に火がついて大慌てというのはあまり嬉しくない状況です。やはり心に火が付いて一歩先んじて手を打つというのがいいですね。(日本経団連洋上研修URL: http://www.keidanren.or.jp/japanese/journal/times/2009/0813/09.html)
●議論の途中の発表会の様子。みんな真剣です。
さて、今回も先回に引き続き、最近実行された改善の中で、このマガジンを通じた改善仲間で共有したいと思われる事例をご紹介したいと思います。
世の中がどんなに厳しくなっても、それに負けないすごい改善を実行して、なるほど「ピンチはチャンス」とはよく言ったものだと、みんなで喜び合いたいと思います。
<事例その2>
今回は私の指導先であるK社において実行している、大ベテランの方が持っている極めて高度な技術・技能を、どうやって若い方に身に付けてもらおうとしているかの実例をお話したいと思います。
ここで言う「技術・技能」とは、例えば動作を分析して標準化するといったことではとてもカバーできないレベルのものであり、もしこのまま彼が定年退職したら、この仕事をやれる人が会社から全くいなくなるといった情況だと思ってください。
普通に考えると、その高い技術・技能を持ったベテランの方に若手の候補者をつけて、しっかり教えてもらえば何とかなると思われるのですが、そう簡単なことではありません。基本的なことであれば口頭でも説明できますが、実際に求められる応用レベルは、それをはるかに超えています。
それと、この世代の方たちは先輩から作業を教わったことがなく、自分ひとりで死に物狂いの努力を続けてきた結果、身に付いた技術であることが多いので、説明が上手でないことが多い(失礼な言い方ですみません)のです。
K社では、ベテラン(Bさんとします)の仕事を中堅(Tさん)にもできるようにしたいと考えていました。そこでBさんにTさんの教育を依頼したのですが、Bさんの説明が全く分からない。Tさん以外にも何人かの人がそこにはいたのですが、誰もBさんの説明を理解できませんでした。
そこでBさんの了解をもらって、Bさんの作業をビデオで撮らせてもらい、Tさんにはそのビデオを参考にして練習し、ある程度の形ができたところでキチンとした作業をしてもらい、それをビデオで撮りました。
その上で、BさんとTさんに一緒に事務所に来てもらい、二台のテレビを並べてお二人の作業ビデオを同時に流して一緒に見てもらいました。そしてその上でBさんに自分とTさんの作業のやり方との違いを説明してもらおうとしました。
最初のうちは黙っていたBさんですが、何度もビデオを繰り返してみているうちに作業の違いが気になってきたのでしょう、徐々に重い口を開いてくださいました。
例えば足の位置について、TさんとBさん自身の足の位置の違いを画面上で示し、「Tさんのやり方だと腰の力が入らないから、どうしても腕の力に頼ることになる。結果として、疲れるし品質がばらつく」と、話してくれました。
このような感じで、Bさんはいろいろな部分の違いを具体的に示してくれました。Bさんにとって、ただ何もなしでTさんに作業指導をすることは難しかったのですが、Bさん自身の作業との違いをまず見た上で、Tさんの作業と比較して、その違いの意味を説明してもらうことはできました。
結果として、Tさんは仕事のかなりの部分の要点をしっかりと理解することができました。また、Bさんとの仕事についての会話も、以前とは違いかなり上手にできるようになり、仕事のレベルもかなり任せられるところまで上がりました。
これはビデオという「見える教材」を上手に使ったことによる成果であったと思います。「見える」と分かるので、前に進めるということですね。ご参考になれば幸いです。
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