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採用・法律

第83回 M&Aを実施したが期待した効果がでない…

中小企業の新たな法律リスク

 都内で飲食店を経営している山本社長は、同業他社を買収したのですが、期待していたとおりにM&Aの効果が実現していないと悩まれて、賛多弁護士に相談に来られました。

* * *

山本社長:当社は、飲食店を複数店舗経営する会社を買収して合併しました。このM&A成立後に、業務プロセスや社内制度を当社に合わせようと色々試してはいるのですが、上手く進まないのです。期待していたシナジー効果が全く表れないばかりか、従業員のモチベーションが下がってしまって困っています。どうしたらよいのでしょうか。

賛多弁護士:M&A成立後に「期待していたシナジーが出ない」、「業務プロセスなどが統合できない」、「従業員のモチベーションが低下する」などの問題はよく起こりうることです。そこで重要になってくるのがPMIです。

山本社長:PMIとは何でしょうか。

賛多弁護士:PMIとは、Post Merger Integrationの略で、M&A成立後に行われる統合作業のことを言います。M&Aが成功する鍵はこのPMIにあるといわれています。

山本社長:具体的に何を行えばいいのでしょうか。

賛多弁護士:対象会社の従業員や取引先は、今後どうなるのかという不安や買手に対する不信感を持っているのが通常です。そこで、まずは従業員や取引先からの不安を払拭し信頼を得て、統合作業の協力を得る必要があります。そのためには、社長の口から、できる限り早期に、買収の目的、今後の経営の方向性、従業員の処遇について丁寧に説明することが必要です。

山本社長:たしかに、私は説明を怠っていました。それに、買収の目的ですか?うーん、買収先の社長が引退するので買わないかと、勧められるままに買ったので、じつは、あまり検討していません。

賛多弁護士:本来であれば、買収を検討する前に、買収の目的を明確にしたうえで、貴社と買収対象会社の強みや弱みをそれぞれ調査分析して、どのようなシナジーを発揮できるか、また、そのための課題を抽出することが望ましいです。しかし、買収後からでも決して遅くありません。今からでも会社をどうしたいのか考えましょう。

石川社長:今からでも遅くはないのですね、わかりました。それと、買収先の会社の日常業務も回らなくなってしまって緊急対応が必要なのですが、これはどうすればよいですか。

賛多弁護士:担当者が退職したり、急な既存プロセスの統合により従業員のモチベーションが低下するなどして、日常業務が回らなくなってしまうことがあります。まずは、ヒアリングやコミュニケーションを通じて現状を把握して、足りない部分を補充したり、従業員に説明しながら良い面を残しつつ悪い面を徐々に改善していくことが必要です。

石川社長:早く統合しようとするあまり、買収先の会社にも良い面があることを考えずに、また、従業員の話を聞かずに一方的に進めてしまいました。

賛多弁護士:そうですね。統合作業は買手企業に何もかも寄せるという意味ではなく、両社の強みを活かしてより良いものを生み出す、という意識が重要です。

石川社長:はい。ところで、この統合作業というのは、どれぐらいの時間を掛けて行うべきでしょうか。

賛多弁護士:会社の規模や状況にもよりますが、統合作業開始から100日ないし1年間を集中期間として、経営体制や業務の統合作業を行うのが理想です。

石川社長:なるほど、比較的ゆっくりやればいいのですね。

賛多弁護士:そう思われるかもしれませんが、実際は、統合作業が経営体制、事業面のみならず管理部門など多岐に及ぶため、意外に時間的猶予はありませんよ。社長一人で進めるのは大変ですので、統合チームなどを組織して行う方がよいと思います。また、社内のリソースやPMIのノウハウがない場合には、専門家からの支援を受けながら進めるのも効果的です。

石川社長:ありがとうございます。M&Aなんて初めてで統合作業をどうすればよいのかも分からないので、先生からご支援いただけますか。

賛多弁護士:もちろんです。一緒に頑張っていきましょう。

* * *

 M&Aは契約成立すれば終わりではなく、売手と買手が真の意味で統合し、M&Aの目的が達成されることによって初めて成功したといえます。たしかに近年、M&Aの件数が増加していますが、実際にはM&A後の満足度は必ずしも高くはありません。具体的には、「期待していたとおりのシナジーが出ない」、「企業文化や経営体制の融合がうまく進まない」、「業務が上手く回らない」、「従業員のモチベーションが低下した」などの不満の声をよく聞きます。
 これらの原因は、M&A成立までを重視するが、成立後の統合作業を軽視したことに起因するケースが多いです。PMI(Post Merger Integration)は、M&Aの目的を実現させ、統合効果を最大化するために必要な作業です。
 PMI作業の要点は、買手と売手の状況を把握分析して、両社の強みを活かす経営目標を設定し、その目標実現のための具体的な施策を策定し、それを実行に移していくことです。M&A成立前の検討段階やDD段階においてこれらのPMI作業を念頭において両者の強みや課題を抽出しておくことが理想的ですが、M&A成立後からでも決して遅くはありません。
 統合が必要な分野は会社によって様々ですが、一般的には経営面(例えば経営方針、企業文化、経営体制の統合など)、事業面の統合(売上増加やコスト削減などのシナジーを実現)、管理面(人事、会計、法務、ITなどの統合)の統合など多岐に亘ります。またPMIの作業期間はM&A成立後から比較的短時間(100日もしくは1年間)で集中的に行う方が効果的です。
 そのため、社長一人で実行するのは大変なため、統合チームなどを組成して実行するがよいでしょう。また中小企業の多くはPMIを推進するためのリソースやノウハウが不足しているのが通常なため、外部の専門家から支援を受けながら進めていくのが効率的な手法です。
 なお、近年は、M&Aを成功に導くためにPMIの重要性にも着目されるようになり、今年3月に中小企業庁から「中小PMIガイドライン」が策定されました。こちらも参考にしながら、M&Aの成功のためにPMIに取り組まれてはいかがでしょうか。

中小企業庁 「中小PMIガイドライン」
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/pmi_guideline.pdf

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 北口 建

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