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故事成語に学ぶ(21) 騏驎(きりん)も衰えれば駑馬(どば)これに先立つ

指導者たる者かくあるべし

 弱者の立場で
 前回に続いて、中国の戦国時代に大国・秦に対抗するために諸侯の連合(合従策)を模索した弁論家の蘇秦(そしん)の説得術について書く。
 表題の「騏驎」は、一日に千里を走る駿馬のこと、駑馬は下等の労働馬のことをいう。
 〈どんな優秀な馬でもやがて老いて、駄馬にも先を越される時がくる〉。この成語は、世阿弥が能役者の心得を書き残した『風姿花伝』の中で、〝老害〟を戒める故事として引用して有名となった。しかし蘇秦は、その巧みな弁論術に引用してこんな解釈をしている。
 「では、なぜ駄馬が優秀な馬を出し抜けるのか?」と。
 
 他の力を頼り、時を生かせ
 蘇秦が、この成語をつかって説得を試みた相手は、秦と並んで大きな勢力を持つ斉王だ。このとき秦は、六国連合の切り崩しにかかっていた。秦王が自ら西帝を名乗り、斉王に東帝の帝号を贈ろうという提案だ。「二人で天下を取ろうじゃないか」との「連衡(れんこう)策」だが、これを聞かされた蘇秦は「それでいいのですか」と問い返した。
 以下は読者の関心事である企業連合のこととして聞くとわかりやすい。
 「秦と盟約を結べば、他の五国は主導権を握る秦を重視して斉を軽んじます。斉が帝号を受けなければ、他の国々は斉に心を寄せて、強引な秦から心が離れます、さてどちらが得策でしょうか?天下平定の大業を目指すなら、天下の諸侯の力に頼ることです」
 さらに続ける。「その際に武力を誇って諸侯を引っ張ろうとしてはなりません。待てば皆に押される時が来るはず。その時が大事であります」
 そして延々と、歴史の中から失敗、成功の教訓を引きながら説得する。
 
 押されて後に立つ
 説得のクライマックスで、表題の成語に触れて、なぜ駄馬が駿馬に勝てるのか、に話は及ぶ。
 「駑馬は決して筋骨の力が騏驎を上回っているわけではないでしょう。恨まれることなくじっくりと押されるまで時を待ち、他人の力を信頼し、頼るからです」
 斉王はもちろん、この説得を受けて秦の天下分け食いの提案を蹴り、六国同盟を固めていくのである。
 駿馬と駄馬の話は、司馬遷も『史記』の淮陰公伝のエピソードで引用している。
 〈騏驥(きき)の跼躅(きょくちょく)は駑馬(どば)の安歩(あんぽ)に如(し)かず〉(すぐれた馬もぐずぐずしていると、のろい馬のたゆまぬ歩みに及ばない)
 西洋でいうと兎と亀の寓話。洋の東西を問わず似たような教訓話はある。
 兎の立場からなら「おごりへの反省」、亀の立場では「努力と希望」。単純な話ほどいろいろに読めるから面白い。
  (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
※参考文献
『中国古典文学大系7 戦国策・国語・論衡』常石茂・大滝一雄編訳 平凡社
『世界文学大系 史記★★』小竹文夫・小竹武夫訳 筑摩書房

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