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人を活かす(3) 三原 脩(おさむ)の遠心力野球

指導者たる者かくあるべし

 日本のプロ野球。第一次の巨人軍黄金期だった昭和30年代に、日本シリーズで水原茂監督の巨人を三年連続で破ったチームがある。

 知将・三原 脩(おさむ)率いる西鉄ライオンズだ。
 
 弱小だった福岡のチームを鍛え上げた手法は、選手個々の能力を最大限に抽き出す三原流だ。「三原魔術(マジック)」と呼ばれる。
 
 水原、川上哲治と引き継がれる巨人野球は徹底した管理野球。対する三原野球は、選手の個性と自主性を重んじて、自己管理を強いる。
 
 宿舎での門限なし、飲酒自由と聞けば、管理野球に対する三原の手法は、「放任野球」と受け取られがちだが、違う。三原自身が自伝でこう語っている。
 
 「選手は惑星である。それぞれが軌道を持ち、その上を走ってゆく。この惑星、気ままで、ときには軌道を踏みはずそうとする。そのとき発散するエネルギーは強大だ。遠心力野球とは、それを利用して力を極限まで発揮させる。私が西鉄時代に選手を掌握したやり方である」
 
 対する管理野球は「求心力野球」だという。目標に向かって心をひとつに突進。規則で選手をしばり、口封じまでして目的を達成する。
 
 「やりたいことをやれ、言いたいことは言え。ただし与えられたことはきっちりとやらねばならない」。それが遠心力野球だ、と。
 
 青バットの大下弘、天才スラッガーの中西太、向こうっ気の強い好打者の豊田泰光、試合が終わればとことん飲みまくる天衣無縫、個性派ぞろいのチームは、「野武士軍団」と呼ばれた。
 
 そのサムライたちを三原はどう操縦したか。
 
 昭和33年の日本シリーズ、西鉄は巨人の前に三連敗。一矢報いたものの後がない。第五戦も2対3で九回の裏。無死二塁の最後のチャンスでバッターボックスには豊田が入る。
 
 三原は豊田を呼んで耳打ちする。
 
 「どうだい、いっちょう打って出るか」。豊田は即座に答える。「ここはバントでしょう。一点でタイですから」
 
 〈しめた、と思う〉と三原は振り返る。
 
 バントで送りたいが、気の強い豊田にバントを命じれば、「打たせてくれ」というに違いない。心の迷いが生まれる。自らバントを決断させれば、その自覚からしくじりはしない。心理読みの妙である。
 
 豊田の送りバント成功が同点打を呼び込んで蘇った西鉄は、延長10回、意気に応えた投手稲尾和久のサヨナラホームランで勝利する。
 
 残り二試合も気をよくした稲尾が疲労を押して連続完投勝利、西鉄は三連敗の後の四連勝。奇跡の逆転優勝で三年連続巨人を降(くだ)して球界盟主の座をもぎ取ったのである。
 
 魔術(マジック)のタネは、緻密に仕組まれていた。
 
 
 ※参考文献
 『風雲の軌跡 わが野球人生の実記』三原脩著 ベースボールマガジン社
 『魔術師 三原脩と西鉄ライオンズ(上)(下)』立石泰則著 小学館文庫
 『プロ野球、心をつかむ!監督術』永谷脩著 朝日新書 
                        
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  著者/宇惠一郎 ueichi@nifty.com 

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