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逆転の発想(25) 災害は再生の好機である(関東大震災の首都復興指揮官・後藤新平)

指導者たる者かくあるべし

 「復旧」ではなく「復興」を
 1923年(大正12年)9月1日正午前、首都東京は激震に見舞われた。多くのビル、住宅は倒壊した。昼食時だったこともあり、東京だけでも約70か所から火の手が上がり、そこここで地獄絵図が繰り広げられた。死者・行方不明者11万余りを記録し340万人が被災した。関東大震災である。
 
 前月、加藤友三郎首相が急死し政治的空白が生まれていた。後継に指名された山本権兵衛は震災翌日直ちに組閣し、東京市長を辞して浪人生活を送っていた後藤新平を内務大臣に起用する。後藤は帝都復興院総裁を兼務し、混乱する首都の治安維持と復旧を託された。
 
 前任内務大臣の水野錬太郎との事務引き継ぎの場で後藤はこう言った。「君、東京はまた元の武蔵野になったね。この際に東京市は大改造をやるのだ。これが一番いい機会だ」。
 
 後藤は「帝都復興の議」を立案して6日の閣議に提出した。冒頭の一節で、惨状は言うに忍びないが、とした上で、「一大英断をもって帝都建設の大策を確立してその実現を期するべきである。躊躇逡巡してこの好機を逸すれば国家永遠の悔いを残す」と書いた。
 
 彼は、事業の目的は再生建設する「復興」であって、元に戻すと意味での「復旧」ではない、とことあるごとに強調した。これには、後藤の東京市長(現在の都知事)時代に果たせなかった首都改造の夢への無念の思いがあった。
 
 東京市長時代に見た夢
 後藤は震災に先立つ3年前に東京市長に就任した。国の顔としての東京の街は、明治維新後、まともな都市計画もなく野放図にただ膨らみ続けてきていた。彼は満鉄総裁時代には、満洲の荒野に新都市を次々と建設し、台湾総督府時代には、台北をはじめとする都市計画を手掛け成功してきた。なぜ東京でできないかのか。
 
 市庁内の事なかれ主義、いわゆる官僚主義の跋扈(ばっこ)が背景にあるとにらんだ後藤は、助役三人に内務省の有力者を呼び入れた。この人材確保のため自らの年俸を全額市に寄付し、その金で助役の給与を50%以上引き上げた。
 
 都市計画、財政の学者たちを顧問として外部から招聘し、組織の政策立案に刺激を与えることも忘れなかった。前回も触れたが、組織の活性化のためにはまず人事に手をつけるというのが彼の流儀だ。
 
 その上で、彼は高規格道路網、上下水道、計画的な都市鉄道の敷設など、欧米の都市計画をモデルに必要な政策を次々と打ち出し、首都改造の総費用として総額8億円の「東京市政要綱」をぶち上げた。当時の国家予算が15億円だから、とてつもない〈大風呂敷〉だった。
 
 政界有力者の支援に奔走し、頼みの綱とした政党政治家の巨頭、原敬が計画に理解を示したものの、原は暗殺され最大の後ろ盾を失う。予算は市議会と政府の抵抗によって削りに削られ、都市計画のかなめである道路建設も頓挫してしまう。
 
 既得権層の抵抗
 市長時代の失敗に懲りた後藤は、震災後の復興にかけた。必要経費は全て国費で賄うととにし、まず、被災地域の全土地1,100万坪を買い上げる構想をぶち上げる。
 
 広大な焦土を国有地として幅広の計画道路を縦横に通して区画整理する。巨額な買収費は公債をあてる。復興計画後に整理された土地を元の地権者に払い下げれば、費用を回収できる。勝算はあった。
 
 しかし、計画は地権者の猛烈な抵抗にあう。地権者と繋がりの深い政治家たちはこぞって反対にまわる。国家百年の計よりも人々は目の前の利益で動いた。既得権層の反発によって後藤はわずか四ヶ月で、復興リーダーの地位を追われた。
 
 その結果が今の首都東京の姿である。東京大空襲を経たのちも東京大改造計画は実行されず、江戸時代の御城下の形そのままに、ただただ膨大に膨らんだだけだ。首都直下地震への根本的な備えを持たない砂上の楼閣の上に1,200万人が暮らしている。世界の先進国を見渡しても、こんな無防備な首都はない。
 
 あまりの先見性ゆえに同時代人から全く無視された後藤新平だが、今、彼の都市計画理論の見直しが進んでいる。都市計画だけではない。人事構想、嘱託知識人の起用など後藤式の都市運営方法は、全国自治体が次々と取り入れている。
 
 後藤に欠けていたのは、〈大風呂敷〉を、市民、国民に説得する政治力だったのかもしれない。
 
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
※参考文献
『震災復興 後藤新平の120日』後藤新平研究会編著  藤原書店
『後藤新平』北岡伸一著  中公新書

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