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危機を乗り越える知恵(5)虎穴に入らずんば虎子を得ず

指導者たる者かくあるべし

 15世紀後半のイタリア・フィレンツェにロレンツィオ・デ・メディチという男がいた。
 
  各地に国が乱立割拠する当時のイタリアで、共和国フィレンツェはヨーロッパの金融を取り仕切るメディチ家を中心にして、多くの芸術家たちを保護しルネッサンスの華として繁栄を誇っていた。
 
  ロレンツィオは20歳でメディチ家の家督を継ぎ国政を取り仕切ることになった。9年後、そのフィレンツェを危機が襲う。
 
  ロレンツィオを宗教的権威にたてつく法敵と見たローマ法王が、ナポリ、ミラノ、ベネチア、ジェノバの四都市の軍で包囲したのだ。
 
  フィレンツェは1年半の間よく抵抗したが、法王庁は宗教的権威で締め付け、4か国軍の攻撃で、もはやこれまでかと思われた。
 
  そこでロレンツィオは意外な手にうって出る。市評議会にも諮らず、商人姿に身をやつし従者を連れて秘かに市を抜け出した。
 
  向かった先は反フィレンツェの急先鋒のナポリ。
 
  突然、王城の城門に現れた宿敵の姿にナポリ王のフェランテは度肝を抜かれる。
 
  残虐で知られるフェランテに、ロレンツィオは「話がある」と切り出した。
 
  「異教徒のトルコはコンスタンチノープルを落とし、イタリアに迫っている。われわれが仲たがいしている場合ではない」
 
  「さらに」とロレンツィオは言葉を継ぐ。
 
  「法王庁を増長させれば、次は国境を接するナポリを攻めるに違いない」。お分かりか、とまで言わなくとも、フェランテには思い当たる節がある。
 
  実際にトルコ軍はイタリアに向けて動き出していた。「この剛胆な男を使わぬ手はない。ここは恩を売って味方にしておけば、メディチ家の財も役に立つ」とフェランテは考えた。
 
  いったんは投獄したロレンツィオを解放し急ぎ講和を結ぶ。法王を説得して四か国軍は包囲を解いた。
 
  ロレンツィオは、どちらかというと醜悪な面相の男だったと伝えられる。
 
  しかしその人柄は、一度会うと相手を虜にしてしまう不思議な魅力にあふれていたという。対面した暗殺者が剣を納めたこともあった。
 
  子供のころから哲学と文学に秀で、雄弁術にたけていた。「人たらし」の才に満ちていたからこそ、窮余の策が人を動かした。
 
  敵地に飛び込んで虎の子を得るか、ただの蛮勇(※向う見ずの勇気)に終わってしまうかは紙一重。剛勇が必ず好結果を呼ぶとは限らない。
 
  それを分けるのは、智謀のあるなしではなく、「人間力」なのだ。
                   
 
 ※参考文献
   『フィレンツェ』高階秀爾著 中公新書
   『物語イタリアの歴史Ⅱ』藤沢道郎著 中公新書
   『名将に見る生き方の極意』会田雄次著 PHP文庫
 
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  著者/宇惠一郎 ueichi@nifty.com 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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