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危機を乗り越える知恵(6)チャーチルの闘い抜く信念

指導者たる者かくあるべし

 1940年5月10日、チャーチルが英国首相に任命された日に、ヒットラーは満を持して西部国境を破り、戦車を先頭に機甲部隊がオランダ、ベルギーから北部フランスになだれ込んだ。
 
 英仏両国は、ナチスドイツがポーランドに侵攻した前年秋、ドイツに宣戦布告し、第二次世界大戦に突入していたが、この期に及んでも英国政府内には対独宥和論が消えない。
 
 多大な犠牲を出した第一次世界大戦(1914~1918年)の後、英国民に蔓延する厭戦気分に政治指導者たちは迎合し、現実が見えなかった。
 
 1930年代前半から保守党の論客であるチャーチルはナチスの台頭について繰り返し「欧州に遠からず未曾有の危機が襲うだろう」と警告を発していたが、党内では厄介者の「好戦狂」として遠ざけられてきた。
 
 知識人たちも、第一次大戦後のベルサイユ条約の講和条件は敗戦国ドイツにとって過酷すぎるという意見が主流でドイツに同情的だ。
 
  「共産主義ソ連の脅威への楯」としてドイツの再軍備も黙認してきた。
 
 1938年、前任の英国首相チェンバレンはミュンヘンに乗り込みヒットラーと会談し、ドイツの隣国チェコスロバキアの部分併合にわざわざお墨付きを与える愚を犯している。
 
  「ヒットラーの冒険主義の危険」を英国は見抜けなかった。チャーチルを除いて。「ドイツとソ連は手を結ぶ」というチャーチルの予言も世間から冷笑されたが、39年には独ソ不可侵条約として現実のものになる。
 
 首相就任の日のことを、チャーチルは「私は絶対に失敗するはずがないと確信していた」と回顧録に記している。
 
 だが、挙国一致内閣というものの、むしろ保守党内は「やれるものならやってみろ」と冷ややかで、政権基盤は脆弱だ。
 
 執務の初日からドイツ軍の電撃侵攻に見舞われ、ライン河方面に送り込んでいた20数万の英国軍はドーヴァー海峡沿いのダンケルクに追い込まれ、兵士たちの運命は風前の灯火だった。
 
 戦時閣議では米国を仲介にした対独講和論が台頭する。
 
  「馬鹿な、全員を救い出せ。戦いはこれからだ」。チャーチルは講和論を打ち消し海軍艦艇を動員して救出に向かわせる。
 
 最高指揮官の強い意志に国民は反応する。対岸の各港から呼びかけに応じた民間のフェリー、モーターボート、はしけ、ヨットまでがダンケルクに向かう。
 
 ドイツ軍の包囲網は徐々に狭まっていた。(この項、次週に続く)
                   
 
 ※参考文献
 『第二次世界大戦1~4』ウインストン・チャーチル著 河出文庫
 『危機の指導者チャーチル』富田浩司著 新潮選書
 『チャーチル』河合秀和著 中公新書
 『チャーチル不屈のリーダーシップ』ポール・ジョンソン著 日経BP社
 
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  著者/宇惠一郎 ueichi@nifty.com 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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