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故事成語に学ぶ(25) 三人言ひて虎を成す

指導者たる者かくあるべし

 噂は一人歩きする
 噂とは怖いものである。「それはあり得ない」と思っていても、複数から同じ噂を聞くと、信ぴょう性の確認は横へおいて、噂はいつの間にか「事実」として一人歩きするものである。
 魏の国の重臣だった龐葱(ほうそう)は恵王に、こういうたとえ話で、噂を信じないように釘を刺した。
 「いま、ある者が〈市場に虎が出た〉と申しましたら、王は本当だと信じますか?」
 「街中の市場に虎が?信じないな」と王。
 「では二人が市場に虎が出たと言い立てたら、どうでしょう」
 「半信半疑となろうが、まだ信じないな」
 「三人が同じことを言いはじめたら?」
 「それなら、わしも信じるだろう」
 龐葱は、ため息をついて王に忠告する。「市場に虎が現れないことはわかりきったことです。それでも三人が言い出したら、虎が出てきたことになってしまいます。ご注意なさいますように」 
 
 ライバルを陥れる讒言
 龐葱が恵王に忠告したのは、魏が趙国に敗れて太子とともに人質として邯鄲(かんたん・趙の首都)に向かうことになった時だった。
 恵王の時代、魏は周辺国と戦いを繰り返し不安定な時期だ。いかなる組織も活性期にあって流動的要素が強いと、リーダーの側近たちはライバルを蹴落とそうと、あらぬ噂を流すもの。とくに、当事者が重要プロジェクトに没頭していたり、出先の立て直しで長く本社を留守にするような時は要注意なのだ。
 龐葱は恵王に嘆願した。「邯鄲は余りに遠い。しかも私を陥れようとするものも多い。なにとぞ、王様にはご賢察くださいますよう」「わかった。なにごとも自分で確かめるようにしよう」と王はうなづき彼を送り出した。
 案じたように、太子一行が邯鄲に着くより早く、魏の宮室周辺には、龐葱をおとしめる噂がかけめぐった。彼が任務を解かれて帰国した時、悪い噂はすでに事実に化け、噂を信じた恵王は、龐葱にお目通りを許さず、二度と大臣に取り立てることはなかったという。
 
 多方面の情報を総合して判断すべし
 この逸話は、『戦国策』にも『韓非子』にも採録されているから、同時代の人々に強い印象を与えたのだろう。韓非子には、別な箇所で、リーダーが正しい判断をするための心得として「衆端、参観すべし」と説かれている。
 「人が唱える意見や諸説(衆端)は、多方面から情報を収集し、それらをよく比較検討し、事実を見定めるべき(参観)である」と。
 「それはそうだ」と納得していても、大きな声に引きずられて判断は鈍ってしまうのである。韓非は、「多くの人が同じ意見を持っているとしても、実は、だれかの意見に忖度しているだけのことが多いのだ。それでは何千人から聞いても一人の意見でしかない」と警告する。
 事実の見極めのためのヒアリングはなかなかに難しいことなのだ。 
 
 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
※参考文献
『韓非子1』金谷治訳注 岩波文庫
『中国古典大系7 戦国策・国語・論衡』常石茂、大滝一雄編訳 平凡社

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