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人の心を取り込む術(15) 組織強化は採用人事から(加藤清正)

指導者たる者かくあるべし

 仕官を願う三人の面接

 戦国武将の加藤清正というと、朝鮮での虎退治のエピソードで知られるように剛勇のイメージが強いのだが、実は人使いの才に長けていた。その巧みな人事による「人たらし術」によって、強固な軍団を築きあげた。
 忠義には公平に報いる清正の「家臣思い」は有名で、熊本に居城を構えてからは、噂を聞きつけて、「清正公のもとでひと働きしたい」と仕官を願い出る諸国の浪人たちが引きも切らなかったという。
 ある日のこと、清正のもとでの奉公を望む老年、壮年、青年の三人が城を訪ねてきた。面接した家老は三人に「なぜ、加藤家に仕官したいのか」と志望理由を聞いた。今も昔も同じである。そのころ清正家臣団には若者たちがやる気を出さないという組織問題を抱えていた。
 老人は答える。「これまでいろんな主君に仕え、手柄も立ててきました。今はもう疲れたので何の望みもありませんが、少々の扶持(ふち=給与)を受けて安楽に余生を過ごしたいのです」。家老は顔をしかめた。
 精悍な壮年の武士は勢いこんで言った。「私も、あちこちの合戦で武功をあげましたが、いつも手柄について真っ当な評価を受けられませんでした。清正公なら、私の武功を評価されて正しくお使いになると考えてやってまいりました」。出世狙いがありありだ。「おれがおれが」で組織の和を乱しかねない。
 最後に若者は滔々と語り始める。「調べてみますと、加藤家の問題は若者たちの慢心にあります。私を採用していただけるなら、その解決に邁進します」と答えた上で、解決策を理路整然と並べ上げた。
 あなたが面接官なら、三人のうち誰を採用するだろうか?
 そう、その通り。家老は清正に、「若者を採用すれば、組織が活性化するのは間違いあありません。あとの二人は問題外です」と面接結果を伝える。

 清正が下した採否

 清正の判断は違った。
 「壮年の男は、立身が望みなのだろう。これは武士の本意であるから召し抱えよう。年寄りの浪人の手柄はわしもよく知っておる。今生の望みも断ち、ゆっくりと茶を飲みながら当家を死に場所と決めたとは見上げたものだ。何かの役に立つだろう」
 さて、問題は若者の採否についての清正の評価だ。
 「彼を採用すれば若者たちが活性化するというのは、大変な考え違いだ。それは家中の若者たちは役立たずばかりだと宣言するようなもので、お前は皆の反感を買うことになるぞ。わしは、家中の若者はみな役に立つものたちだと思っている。若者たちに気力が失せて見えるのは、上に立つものたちがきちんと指導しないからだ。その指導の役割を期待して合戦の現場を退いたものたちを高い禄で召し抱えておるのだぞ。家老であるならよく分別せい」
 若手社員が不甲斐ないのは、彼らの問題ではなく、中間管理職の指導力不足が原因だと諭したのだ。

 活性化した組織

 さて、清正の人事採用判断で、加藤家の家中はにわかに活気づく。
 まず、清正が「うちの若者はみな役に立つ」と評価したという噂が伝わると、「殿はわれわれを評価している」と気をよくした若手家臣らの目の色が変わった。大家に勤めているというエリート意識を振り捨てて、われ先にと文武に励むようになる。
 中間管理職たちも、「立身出世」を公言してはばからない一人の加入でぬるま湯から脱して競争意識が芽生えた。清正に認められようとライバル意識むき出しで競うように若手教育に乗り出す。
 さて、枯れてしまった老年の浪人、仙石角右衛門は、どうなったか。清正から与えられた城の一角の一室で老人は茶を点てて過ごす。のんびりどころか、悩みや不満を抱えた中間管理職、若手社員たちが押しかける「よろず相談室」となる。組織人生での豊富な経験を社員にアドバイスする相談役として、加藤家にはなくてはならない大きな機能を発揮する。
 思いもよらなかった清正の人事判断に、「家老(庄林隼人しょうばやし はやと)は感服した」と『名将言行録』は特筆している。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考文献
『名将言行録』岡谷繁実著 北小路健、中澤惠子訳 講談社学術文庫
『歴史に学ぶ「人たらし」の極意』童門冬二著 青春新書

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