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国のかたち、組織のかたち(7) 中央集権制国家の確立(明治維新の本質)

指導者たる者かくあるべし

 直接国家支配

 江戸幕府による「大政奉還」と「王政復古の大号令」によって、徳川将軍家による日本国統治は制度上、終焉を迎えたが、新国家建設はまだ産みの苦しみの中にあった。

 歴史学的にみれば、いわゆる明治維新の本質は、単に国の統治権者が徳川将軍家から天皇家と取り巻きたちに移った権力闘争にあるのではない。欧米列強による強烈な外圧が降りかかる中で、封建的な国家統治のあり方を、列強に伍して生き残るために、強力な中央政府による一元的な中央集権国家に生まれ変わらせる試みだった。

 江戸開幕以来260年にわたり、日本は、中央政府としての江戸幕府が約260の藩を通じて間接的に統治するシステムが敷かれてきた。各藩の財政はそれぞれに独立しており、農民、商工人は各藩主に帰属していた。その統合体としての国が存在していたわけで、「鎖国」を建前とする平時には、この幕藩体制は平和維持に機能していた。かえって、各地方(藩)が独自に高い学問水準と独自の産業を保有し、国土の均衡発展に寄与してきた側面もある。

 しかし、諸外国から開国通商の圧力が加わる幕末の有事となると、国家としての常備軍もなく、それを支える財政も乏しい体制は危機の中に叩き落とされた。それが維新を必要とした歴史的必然性だ。

 近代的官僚統治制度

 倒幕に動いた志士たちや、英明な藩主たちの間では、「強力な中央集権国家樹立」への組み替えの意思は強かった。だが、それを生み出す組織的基盤がわが国にはあまりにも脆弱だった。

 王政復古の名の下に、統一国家の結節点として古代以来連綿と続く天皇家の権威を利用することは合意を見たが、その統治機構としてホコリに塗(まみ)れた太政官制度を持ち出しても機能するわけがなかった。長く政権運営から遠ざかっていた朝廷官僚たちには、国家運営のノウハウさえなかった。

 藩を廃止して中央政権の出先としての地方制度を確立しようと、藩主たちに、所有する土地と人民を朝廷に変換する「版籍奉還」(明治2年=1869年)を強いたが、これは名ばかりの措置で、実質的には藩主が土地の支配権を維持した。

 2年後には、藩制を廃止して国の統治機関として府県制度を導入したが、藩の統治区域を府・県と改称しただけで、「三府三百二県」にも上った。

 その役人たちも。旧藩の官僚士族を採用せざるをえず、維新とは名ばかりだった。

 新政府の焦り

 中央の政府機構も同様だった。朝廷の古代官僚機構も次第に整理され、「祭政一致」の奇妙な原則のもとで、無用の長物と化していた神祇官は廃止され、天皇の裁可を仰いで運営される太政官の下の正院と、左院、右院を中心とする協議体に整理される。しかし、それを取り仕切る中央官僚は、外野の声を遮断するために、薩摩、長州、土佐、肥前の維新勲功者たちで独占され、幅広く民の声を反映する体制とは程遠いものだ。

 明治新政府には焦りがあった。時が経つにつれ、士族階層の不満は高まり、農民たちも各地で不穏な動きを見せる。

 一刻も早く、安定した政権の「形」を国民の前に見せる必要があった。

 戊辰戦争で、旧幕府勢力を武力で抑え込み、勇ましく発足した明治政府だったが、維新は、練りに練って十分に準備された革命ではなかったのである。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

(参考資料)
『日本の近代2 明治国家の建設』坂本多加雄著 中公文庫
『日本の歴史 20 明治維新』井上清著 中公文庫

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