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挑戦の決断(30) 平安遷都(桓武天皇)

指導者たる者かくあるべし

 即位と複雑な血統
 「鳴くよウグイス平安京」(794年)と年号の語呂合わせで学生時代に覚えた平安遷都、さてそれを実行した天皇は? ほとんどの人は桓武(かんむ)と答えられるだろうが、一体どんな人と聞かれてもピンと来ない。暗記学習法の限界だ。
 天智天皇のひ孫だが、父・光仁(こうにん)天皇の後継者争いにおいて本命ではなかった。7世紀後半の天智王統は、壬申(じんしん)の乱で弟の天武に取って代わられ、天皇後継から遠ざけられた。ところが天武、聖武の血を引く称徳女帝には子がなく、天武の直系王統は途絶えることとなる。ひとまず天敵の天智系から光仁が即位するが、皇后には天武系から聖武の娘を迎え、その子(他戸=おさべ=親王)が皇太子となり、天武系の王統が続くことになっていた。
 桓武も光仁の子ではあり有資格者に見えるが、母親は百済からの渡来人の娘で、当時の慣習からすると、血統に問題ありとされた。ところが、ここで政変が起きる。皇后が光仁を呪詛(じゅそ)したとして、他戸皇太子とともに皇室を追われた。皇后と皇太子はのちに同じ日に同じ蟄居先で死亡しているから、おそらく天智系の復活を目指す勢力による宮廷クーデターと謀殺であろう。当時の皇室は二派に分かれ決して一枚岩ではなかった。
 こうして桓武が皇太子となり、781年(天応元年)に平城京で即位する。
 
 反発と強硬策のイタチごっこ
 複雑な経緯で即位したから当然に奈良の平城京は政敵だらけである。不満分子を次々と謀反の疑いで摘発し追放する。桓武の政権基盤は脆弱だった。
 この状況を打開するために、桓武は「改革派」を標榜した。〈自分は政権を簒奪したのではなく、天命によって政権が天武系から天智系に戻った〉ことの強調である。次に考えたのが遷都だった。都を、天武系の歴代が建設してきた仏都・平城京から移転を目指す。710年に中国式の本格的都城である平城京を建設してまだ70年あまり。抵抗も大きい。遷都の合理的理由もない。膨大な金と労力もかかる。そこで、遷都計画を伏せたまま、京都市南郊にあって淀川水系と街道の結節点で水陸の要地である長岡に別宮としての宮殿の建設を先行させる。資材も、聖武時代に別宮として建設された難波宮を解体して移築した。最終段階で平城宮の解体に手をつけ長岡に運んだ。
 しかし、これには、抵抗が大きく、長岡京建設最高責任者が暗殺されるに至る。この事件では、天皇の同母弟で皇太子の早良(さわら)親王が関与しているとして逮捕され、淡路島の幽閉先に移送される途中で自死する。万葉歌人としても著名な大伴家持(おおとも・やかもち)も連座して官職を解かれている。
 この性急で強引な遷都は、反発に対して強硬策を繰り返し、強硬策がまた反発をうむ悪循環に陥る。さらに完成した長岡京は洪水に見舞われて放棄せざるを得なくなる。現在の京都の地に平安京が遷都されたのは、さらに10年後の794年のことだった。
 
 人心一新をあせる余りに
 桓武が描いた政権構想は、天皇に権力を一点集中させる中央集権化だったのだろう。そのために、旧弊の塊である奈良の地を離れたかった。政治に深く関わる寺院勢力も新都から切り離そうとする。長岡京にも平安京にも平城京からの寺の移転は許さず、貴族たちの私寺の都での建設を禁じた。全国の神社も、神主の任命権を天皇が一手に収め、統制を試みる。
 短期間での遷都には、全国から膨大な労働力を呼び寄せた。さらに国民の不満をそらすために東北地方の蝦夷(えみし)討伐の戦いも始める。民は疲弊する。
 見かねた側近の参議・藤原緒嗣(ふじわら・おつぐ)の進言で、平安京造営の人員動員にブレーキがかかるのは、平安遷都が宣言されて12年後の806年(大同元年)のことである。
 桓武の改革意欲によって、結果的に「1200年の都」が完成した事実を認めないわけではない。7世紀以来の国家の課題であった中央集権化が進んだことも確かであろう。
 ただ、一人のリーダーの権力欲で始まった強引な遷都がどれだけ庶民を苦しめたかということも、平安遷都の歴史の背後にあったということを知ってもらいたくて書いたまでである。
 
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
 
 
※参考文献
『平安京遷都』川尻秋生著 岩波新書
『日本の歴史4 平安京』北山茂夫著 中公文庫
『京都〈千年の都〉の歴史』高橋昌明著 岩波新書

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