【意味】
国家や組織の正しい運営がされている時は、下からの意見が通る。慶ばしいことである。
ただ心配することは、意見が通ることに付け込んで、功名利益を狙う者どもが次々と現れて、
次元の低い具申をすることである。
【解説】
臣下の意見を一般的に「具申」といい、君主に対する小言や叱責を含むものを「諫言(かんげん)」といい、
媚び諂いの甘言を含むものを「佞言(ねいげん)」といいます。
中国3000年の歴史でも具申や諫言を積極的に受け入れた君主は、
素晴らしい治世をしています(例:唐王朝二代目太宗の「貞観の治」)。
しかし善人も時には悪人に変身し、善人の仮面をかぶった悪人も多い世の常ですから、
佞言を採用して王朝の崩壊を 招いた君主も少なくありません。
現代企業のトップは民主主義教育により育っていますから、掲句のような「具申を受け入れる経営」
という教えに触れますと、物分りの良い民主的社長のイメージに流され、早速周りの意見を聞こうとします。
しかし具申も2~3回の聞き入れだけならば、程々のトップでも真似ることができますが、
継続的にとなればかなり難しいものと考えた方がよさそうです。
具申の中身は、取り上げやすい純粋な意見ばかりではありません。
腹に一物ある佞言も多く、諫言には恨みを晴らすためのものも含まれていますから、先ずこれらの真意の身極めが大切です。
更に見極め後の素早い対応が必要になりますが、この対応が伴わなければ
トップとしての信頼を失い部下からの具申もなくなります。
また実践力不足のトップや我侭なトップにおいては、自分の対応力不足を棚に上げて、
貴重な具申や諫言をしてくれた部下に対して偏見や恨みを持つことも少なくありません。
歌謡曲の物真似ならイザ知らず、経営における安易な物真似はトップの墓穴を掘りますから、
具申受け入れを公言する場合には、それなりの心構えが必要です。
掲句後半に「功利の徒、・・紛起群奏する・・・」とありますが、功利の徒とは佞臣です。
佞臣とは 上司やその家族に媚び諂う者、具体的には耳障りの良い甘言をして上司に取り入ろうとする輩です。
名著:十八史略には「大姦は忠に似たり、大詐は信に似たり」とあります。
大悪人はちょっと見には忠義の臣下に似て、大詐欺師はちょっと見には
信義の臣下に似ているとのことですから、留意したいものです。
最後に現代人は、時代を覆う大衆思想に無意識に迎合する傾向がありますので、
敢えて掲句と反対意 見を述べた名言を紹介しておきます。
三国志には「早く大計を定め、衆人の議を用ちうるなかれ」とあり、カントの後継者の
ショウペンハウエルも「孤独は全ての優れた人間に課せられた運命だ」とあります。
トップには上司や同僚がいないですから、その決断に助力を求めることはできません。
正しい報告が稀である中で最終的には全責任を以て孤独な決断することもしばしばです。
具申受け入れに慣れて、イザという時の決断ができないようでは、トップ失格となるのです。
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- 第25講 「言志四録その25」
国に道有る時は、言路開く。慶すべきなり。ただ恐れる、功利の徒、時に乗じて紛起群奏するを。
杉山巌海