出版不況で歴史ある雑誌が続々と廃刊になるなど、
近年雑誌を取り巻く環境は一段と厳しさを増しています。
そんな中、一際強い存在感を発揮しているのが、
“文春砲”でおなじみの週刊文春、及び文藝春秋。
いずれも文藝春秋社から発刊されていますが、今年が創業100周年とのこと。
そのメモリアルイヤーに登場したのが、今回紹介する
『文豪、社長になる』(著:門井慶喜)です。
タイトルにある”文豪”とは、創業者の菊池寛。
代表作は『恩讐の彼方に』、『父帰る』など。
中高時代に、文学史(国語)の授業で、タイトルを暗記させられた
記憶があるのではないかと思います。
本書は、菊池寛の半生を、歴史小説で定評のある直木賞作家・門井慶喜氏が綴ったもの。
・文豪・菊池寛は、一体どんな経営者だったのか!?
・文藝春秋社は、いかに誕生し、成長していったのか?
といったあたりが、経営者やリーダーとしては、特に気になるところかと思いますが、
ポイントはそれだけではありません。
まるで、菊池寛を通じて、近代日本史の重要な出来事を体験できるよう!
芥川賞、直木賞の誕生秘話、満州事変、盧溝橋事件、
菊池寛を中心とした従軍記者、戦後直後の日本…
さらには、夏目漱石、芥川龍之介、直木三十五、川端康成、久米正雄、横光利一、石井桃子ら、
日本の文壇を代表する人々のエピソードも豊富。
さまざまな角度から楽しめる一冊となっています。
個人的には、
・当時、既に『改造』や『中央公論』などの人気誌がある中で、
後発の『文藝春秋』が、なぜ成功できたのか?
・急成長を続ける中で突如訪れた倒産の危機をいかに乗り越えたか?
あたりが、特に印象に残りました。
文学ファンとしては、
菊池寛が人気作家として飛躍するキッカケとなった『無名作家の日記』、
大ベストセラー『真珠夫人』の秘話は見逃せないところです。
ビジネス書の棚にない本ですから、
本書の存在に気付かなかった方も多いかと思います。
経営、文学史、近代日本史が一気に楽しめる、この実り多き一冊、
今すぐ読んでみてください!
尚、本書を読む際に、おすすめの音楽は、
『北村英治のすべて』(演奏:北村英治)です。
94歳の現役ジャズ・クラリネット奏者として
押しも押されもせぬレジェンド、北村英治氏。
先日、NHKのTV番組で特集されたこともあり、注目度が高まっています。
本作は、そんな北村氏のベストアルバム。
創業100年の文藝春秋社と94歳のジャズの巨匠のコラボ感覚で
お楽しみいただければ幸いです。
では、また次回。