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- 第33回 『ボディ・ブレイン: どん底から這い上がるための法則(ルール)』 (著:下柳 剛)
2週間ほど、フランスからスペインにかけて
町から町へと行脚し、帰国しました。
日々新たな町を訪れる中で
最も心に感じたところは、
"変化すること"です。
昔からの伝統と新しさが見事に同居する
ヨーロッパの町、人々の生き方。
めまぐるしい時代の変化の中においても
長く魅力を保ち続けるその姿に、
我々のビジネスや人生の大きなヒントになるように感じました。
変化ということで、
ふと浮かんだのは、この一冊。
『ボディ・ブレイン: どん底から這い上がるための法則(ルール) 』
下柳 剛 (著)
です。
下柳氏は、昨年44歳で引退するまで、
阪神タイガースなどで中心選手として活躍しました。
その実績で特筆すべきところは、
通常なら選手生活の晩年にあたる三十代後半を過ぎてから、
最盛期を迎えた点です。
37歳で史上最年長の最多勝獲得、
その後4年連続で二桁勝利達成。
力が落ちる年齢にさしかかってから、
逆に飛躍的に結果を伸ばした、稀有なる選手です。
では、一体なぜそのようなことが可能になったのか?
その答えは、本書に収録された
"人生を変える20の法則"にあります。
集約すると、主な理由が2つ読み取れます。
1つは、学ぶ姿勢。
本職である野球以外に、
格闘技、陸上、ピラティスなどの他競技からも積極的に学び、
自身のパフォーマンスを高めることに意欲的。
さらに、裏千家家元・千宗室氏や、
千日回峰行を成した大阿闍梨・塩沼亮潤氏らにも指導を仰いでいます。
茶道の家元に「投球の極意」について尋ねた選手は、
かなり珍しいのではないでしょうか。
もう1つは、意識の向け方、です。
「人生の崖っぷちからタイガースで花開くことができた理由は、
"ゾーン"に焦点を当てた学び方をした、ただそれだけの理由だった」。
"ゾーン"という言葉に初めて触れる方もいるかと思いますので
簡単に説明すると、スポーツ用語で、
自らの能力をフルに発揮できる究極の集中状態を意味します。
これは、スポーツに限った話ではありません。
日常生活においても、ゾーン経験をしたことがある方は
少なからずいるはずです。
たとえば、試験や発表会などの重要な場で、
自分でも信じられないような結果を出してしまったことが
ないでしょうか。
多くの場合は、偶然ゾーンに入ったことで
思いがけず潜在能力が発揮され、好結果につながります。
しかし、もし、たまたまゾーンに入るのではなく、
意図的に、かつ、継続的にゾーンに入れるよう、
自らを整えることができたなら?
スゴイことになりますよね、それは!
氏は、そこに目を向けました。
そして、もがき苦しむ中、極意をつかみます。
最も効果的だったのは何か?
それは、坐禅(瞑想)とのこと。
坐ることで身体感覚が鋭敏になっていき、
バッターの微細な動きが知覚できるようになった。
結果、頭で考えるのではなく、
全身の感覚が必要な答えを教えてくれるようになった、とのこと。
その具体的な瞑想法や真髄についても、非常にわかりやすく、
克明に書かれています。
これは、自分を高めたい人には、必読の一冊ですね。
特に、中高年以上のビジネスマンには、
大きな励みになるとともに、参考になることが多いでしょう。
他分野で顕著な結果を出した人の経験からは、
本当に学ぶところが大きいですね。
尚、本書を読むときに、おすすめの音楽は
マイルス・デイビスの『Tutu』です。
常に新しい音に挑戦し、変化し続けたジャズ界の巨匠が
人生の晩年に遺した傑作。
ぜひ合わせてお楽しみください。
では、また次回。