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人間学・古典

第64講 「帝王学その14」
古より帝王を観るに、憂危の間に在るときは、賢を任じ諫を受く。安楽に至るに及びては、必ず寛怠を懐く。

先人の名句名言の教え 東洋思想に学ぶ経営学


【意味】

古よりの帝王を観ると、国が困難な状態である時は賢者を登用し、その厳しい意見を聞く。国が安定した状態である時は、決まって油断が生じる。



【解説】
今回は「貞観政要」からです。
国が徐々に安定期に向かいますと気の緩みが生じます。掲句と似たものに「驕逸(キョウイツ)せば、必ず喪敗(モハイ)するに至る」とあります。“驕”は驕慢ですから驕って威張ること、“逸”は安逸ですから遊び怠けること、“喪敗”は喪(ウシナ)い敗れることです。


一つ国の興亡を時の流れで眺めますと、王朝初期には旧新の両王朝の崩壊と創業が同時進行しますから、旧勢力の残党を排除しながら新勢力を伸ばすという緊張感があります。当然帝王も臣下も一体となって政務に励みますから、人物が排出され国も繁栄していきます。
しかし王朝も中期安定の時期に入りますと自然に「余裕贅沢の緩み」が生じます。王朝は大きな組織ですから、いったんこの緩みが生じますとなかなか流れを変えることはできません。カエルがぬるま湯に気付かないのと同じように、帝王や臣下も気付かないままに油断が生じ、最悪の場合には自壊の道を歩むことになります。


企業においても同じで、世間に認知されない創業期や突然の大口取引先の倒産などの困窮時よりも、安定業績期においてカエルのぬるま湯と同じで緩みが生じます。
不思議なもので、創業間もない弱体企業の時には優秀な人材が集まりませんから、たまたま縁ある人材を使うことになります。安定期の企業は世間からの評価も高く優秀な人材が集まります。世間目線で評価すれば明らかに後者の人材が優秀であるはずですが、企業土壌に緊張感が無い状態では、折角の人材も無駄になってしまいます。


過日もあるやり手の中堅社長が「最近の我が社は業界の大手になりましたから、どのような人材でも採用できる・・」と豪語していましたが、この言葉の裏に潜む危険を感じました。
掲句では「憂危の間に在るときは、賢を任じ諫を受く」とありますが、危機を憂う(心配する)時こそ、実は世間からの有難い諫言を頂くときですから、心配はありません。寧ろ企業安定の時こそ「寛怠を懐く」可能性が大ですから、賢人の採用が必要と考えます。


どのレベルの賢人を採用すべきか? 名著『言志四録』に次のように述べられています。
(1)才有りて量無ければ、物を容(イ)るるを能わず、
(2)量有りて才無ければ、事を済(ナ)さず、
(3)才量兼ぬること得(ウ)べからずんば、才を捨てて量を取らん。

才覚があっても度量が無ければ、人を受け容れることができない。度量が有っても才覚能が無ければ、事を成し遂げることができない。才覚と度量の二つを兼ね備えることができないならば、才覚を捨て度量の人物を登用したいという。
才覚とは学才や機転をいい、短期間で身に付く部分的な能力です。度量とはその者の半生から身に付けた人間の大きさですから、短期間では身に付かない全人格的な能力です。

 

杉山巌海

第63講 「帝王学その13」 卿はその美を称すといえども、彼は専ら卿の悪を談ず。前のページ

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