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人間学・古典

第72講 「帝王学その22」
用うること正人を得れば、善をなす者みな勧(すす)む。誤りて悪人を用うれば、不善なる者競いて進む。

先人の名句名言の教え 東洋思想に学ぶ経営学


【意味】

言動の立派な人物を登用すれば善人派の勢力が増え、逆の者を登用すれば悪人派の勢力が増す。



【解説】
「貞観政要」からです。
有名な諺「先ず隗(カイ)より始めよ」(戦国策)とは、一般的な解釈では「手近なところから着手する」或いは「言い出した人間が先ず始めよ」とされますが、元々は人材募集の妙案の一つから生まれた諺です。

※戦国策(センゴクサク):漢の劉向(リュウコウ)の編。戦国時代(前403-前221)の縦横家(ジュウオウカ:諸子百家の1つ)の策略思想をまとめた名書


時は紀元前300年代の頃、燕王:噲(エンオウ:カイ)は、古代の聖人"堯(ギョウ)""舜(シュン)"の禅譲論に惑わされ、王位を宰相子之(シシ)に譲ったため、太子・平の一派との内部抗争が起き、燕は衰退し隣国斉(サイ)からの侵略に苦しんでいました。そのような時に子之の後の燕王になったのが、平の子の昭王(ショウオウ)です。
昭王は斉国から受けた汚名を濯ぐために、天下の賢人を集める人材募集策を家臣:郭隗(カクカイ)に相談しました。郭隗は「死馬の首に大金を払い、瞬く間に名馬を集めた」という故事を例に出し、「まず私のような必ずしも一流でない者を採用してください。そうすれば私より有能な人物が続々集まってきます」と進言しました。この逸話が名著:「戦国策」に記載され、有名な諺「先ず隗より始めよ」となったのです。


郭隗の採用説は以下のものですが、その特徴は被採用者の優劣よりも、採用側の「受入姿勢のレベル」に応じ四種のレベルの人物が集まってくると説いています。
     (1)受入側が、その者に怒鳴り散らすだけの態度 ⇒ 下男程度の人物が集まる
     (2)受入側が、その者に偉そうに指示だけの態度 ⇒ 小役人程度の人物が集まる
     (3)受入側が、その者を対等以上に受入れる態度 ⇒ 自分の十倍程度の人物が集まる
     (4)受入側が、その者を尊敬し教えを授かる態度 ⇒ 自分の百倍程度の人物が集まる


この後郭隗の進言を採用した昭王は、彼を迎え師として厚遇しました。するとしばらくすると楽毅(ガッキ:趙の名将)や趨衍(スウエン:陰陽説の祖)などの有能な人材が集まり、念願の斉を撃破することができました。


掲句は、中国史上最高の名君:唐二祖太宗の言葉です。太宗の下にも多くの人材が集まりましたが、彼も人材登用においては「戦国策」の故事を参考にしていたといわれています。
太宗は自分の子飼いの臣下のみならず、初祖の高祖からの臣下、更には敵側の有能な臣下も積極的に受け入れ、しかも分け隔てなく彼らにズケズケ進言させて、その能力を引き出し、数々の国難を乗り越えています。


鶏と卵のどちらが先かとなりますが、やはりトップの人物器量やその組織の雰囲気が人々を魅了し、その器量や雰囲気が人々を更に育てていきます。しばしば「優秀な社員がいないから・・」と苦言を呈するトップもおりますが、天に向かってツバを吐いているようなものです。先ずは、社長自身の器量魅力の鍛錬より始めなければなりません。

 

杉山巌海

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