【意味】
何事も根本の部分をしっかりと行うことである。
【解説】
この句も唐帝:太宗(タイソウ)の言葉で「貞観政要」からのものです。
Number oneとOnly oneは、共に数字の1に繋がる日本人には使いやすい英語表現です。前者は多数の中の第一番ですから相対的な比較順位であり、後者は多数の中の個性的な唯一の存在ですから絶対的な独立評価から生れます。
朝礼の参加者の姿勢を例に取りますと、ナンバーワンは参加者の中で一番好ましい参加姿勢を取れる者となりますが、全員の参加水準が低い場合には高いものとは限りません。これに対してオンリーワンは「自分流の朝礼姿勢はかくあるべし」という根本の部分が確立されていますから、その参加姿勢に独特な魅力が漂っています。
掲句に続き太宗は、「国の本は民である。兵役などの賦役により農耕の時を奪ってはならぬ」と述べています。
唐の創業は、前王朝"隋"末の18年間の戦乱で人口も最盛期の三分の一まで減少した時期でした。太宗は元々勇猛果敢な青年武将として活躍し、父高祖(コウソ)の8年の後を継いで28歳で帝位に就いた人物です。根っからの武将ですから兵役重視となりがちですが、"国の本は民の安定にあり。民の安定の本は農にあり。更に農の安定が兵力に繋がる"という独自の信念を持っていました。
その意味では見事に「我が治世はかくあるべし」としての自分流の統治ができた皇帝でした。この意味から太宗は"Only oneの皇帝"であって、その治世レベルは歴史的に検証すれば"中国3000年の中でNumber oneの皇帝"という評価にもなり、大皇帝の名を欲しいままにしていまします。
先日、地元にあります日本酒と豆腐料理の店の開業35周年の席に招かれました。80歳の女将さんと息子さんが守り続けてきた店で、日本酒好きには宝物のような飲み屋さんです。行く度に文句のないおいしい銘酒にあり付け、日本酒の温度管理が上手ですから時には十数年前の古酒も飲ませていただき、豆腐料理も絶妙に酒に合います。
記念の席では永年の馴染み客ということで主客の後に挨拶をする羽目になりました。雄弁家の主客に大方の話をされてしまったので、とっさに次の句を創って挨拶をしました。
「旨酒(ウマサケ)の 孤塁(コルイ)守りて 三五年(サンゴネン) 傘寿(サンジュ:80才)の母に 子の偉業」(巌海)
挨拶を終えると列席者の一人が、「ましく孤塁守りて35年だ。私も35年来の客だが、酒と料理が何度来ても新鮮だから不思議だ」と話し掛けてきました。
実はこの35年の間に何度か「豆腐以外の料理も・・」と助言してきたが、頑として聞き入れてもらえなかった。35周年の席で掲句の「凡そ事は、皆すべからく本を務べし」をふと思い出し、改めてこのままの日本酒と豆腐料理だけよいと感じ入った次第でした。太宗は23年間ですが、80才の女将さんと息子さんは実に35年の永きにわたり孤塁を守り続けているのですから・・・。
「旨酒を味わうには、酒味・料理・猪口に合わせた飲み手の品位も必要である」(巌海)