(東京都)
その写真はかなりのインパクトの鍋だった。
どうインパクトがあったかというと、“痛・風・間・違・い・な・い”というほどの迫力がある鍋だった。
20時スタート。たまたまスケジュールが空いていたので、便乗することにした。
早速、「体に悪そうですが、参加します」とメールを返した。すると、「体に悪いものは、心にはやさしいんですよ」と返答。
なにやら凄そうな店に行くことになった。
早速、所用時間を調べていると、錦糸町の二つ先。お世話になった遠藤社長のお住まいの亀戸のひとつ先。まあ、たいした距離でないことが判明した。
人生三度目の平井。総武線沿線らしい雰囲気がある。店のほうに向かって歩いた。
店に着いたのは19時40分ころ。すでに6名~8名くらい並んでいる。
「こんな店が予約をとるんだろうか?もしかしたら、先に来た人間が並ぶんでは・・」
心配になった私は、念のため、確認のメールを食通の友人に送った。
すると「中でお待ちください」とメール返答があった。安堵した。
ワイド95センチの4名がけのテーブルに丸椅子。決して小綺麗とは言えない空間。しかし、「この店は確かに凄そう」とか「この店は間違いない」というインスピレーションを感じる。
並ぶくらいだから、相当なんだろう。
例えば、二号店を出すときなんぞはゆったりした店を作ってしまう。そうするとバランスが崩れる。お客様も来なくなる。こういうパターンを何度みたことだろうか。
したがって、こちらの店のマスターは、その“経営のツボ”がわかっているのかもしれない。
食通の友人が揃えたのは美女2人だった。あと、我々おっさん2人。メンバーがそろった。
実は、この美女2人を揃えたのには意味があったのだ。この店を利用するには美女はとても重要らしい。この空間の活況感に必要なエレメンツとマスターがそう仕向けているのかもしれない。
席につくなり、食通の友人はメモパッドを鞄から出した。そして、みんなに要望を聞いて、おもむろにオーダーする料理のメモをはじめた。
どうもこの店ではこれが重要らしい。あとでわかったが、オーダーがうまく通じない。
まるでアメリカで電車のチケットを買うときのあのジョーク――“To New York”と言ったら、二枚チケットが来たので、“For New York”と言ったらチケットが四枚来たというノリのようだ。
しかし、そんなことは関係ないこの店の目的はただひとつ鍋なのである。
【序章1】 ごくふつうにうまい〆鯖
【序章2】 冷やしトマト ごくふつうにうまい。外さない味。居酒屋の定番。
全メニュー懲りすぎると、なんだかわからなくなる。
そんなことを学べますね。
【序章3】 烏賊。外さず、うまい。
【序章4】茄子 これも外さずうまい。
【序章5】アジフライ
「!!!!!」としか思わないルックスである。これはやばい。
この店の鍋の扱いからにはルールがある。
鍋奉行であるマスターにすべてをゆだねないといけないのだ。
一見、放置プレーと感じるかもしれない。
しかし、ひたすら、会話して待つのだ。
鍋マスターは観ていないようで、観ているからだ。
美女が必要なのは「マスターのやる気があがるからだ」と食通の友人が言う。
ばさっ、ばさっ、と下にある野菜の下に白子を沈めた。
この鍋がうまい。いや、うますぎる。決して上品な鍋ではないが、何か体に染み入る力強さがある。あっと言う間に鍋は無くなってしまった。
で、〆となった。食通の友人のおすすめはうどんだった。
みんな同意して早速うどんを注文した。
運ばれてきたうどんは圧巻だった。袋から出したというできあい感たっぷりのルックスだった。
そこにまたマスターがやってきた。鮟鱇の骨らしきものを持っている。それをばさっと投入した。そして、鍋に火をつけた。ふたたびやってきて、鮟鱇の口骨を持ってきた。
鍋に浮かんだ鮟鱇の口はエイリアンのようだ。
そして、我々はまた放置された。
鍋のアクが浮上して、ぶくぶくぶく、最後にはキメ細かい泡となり、せりあがってきた。
しかし、放置は続いた。
そして、またマスターがやってきて、一気に骨を皿にとった。
そして、うどんを投入した。
そして、美女たちに口骨を割りコラーゲン・サービスを始めた。
最後にお会計した。
メモを見てみんなが「安っ」と感じた。
素敵な夜は終わった。
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