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第74回 宮ノ下温泉(神奈川県) 豊臣秀吉も愛した箱根の鄙び湯

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■有名ホテルの陰に隠れた〝秘湯″

 箱根の宮ノ下温泉に、穴場の入浴施設がある。宮ノ下温泉は、箱根湯本、塔之沢、堂ヶ島、底倉、木賀、芦之湯とともに「箱根七湯」のひとつとして数えられ、江戸時代には、すでにその名を知られていたという。
 宮ノ下温泉といえば、明治11年(1878年)創業の富士屋ホテルが、ランドマーク的な存在として有名である。和洋折衷の建物の雰囲気も人気の秘訣。現在では箱根駅伝の中継地点としてもおなじみだが、かつてはチャップリンやヘレン・ケラー、ジョン・レノンとオノ・ヨーコ夫妻など、海外のVIPも宿泊した伝統あるホテルだ。
 富士屋ホテルの目の前を走る国道1号線は交通量が多いが、ほとんどの人はホテルに目を奪われる。しかし、実は富士屋ホテルと道路を挟んだ反対側に、小さな温泉がひっそりと佇んでいる。その名は、「太閤(たいこう)湯」。地域の自治会が運営している小さな温泉施設だ。


 国道から少し奥まったところにあるため、多くの観光客は見逃してしまうだろう。まさに共同浴場の雰囲気だが、地元の人だけでなく、場所柄、観光客の利用も多い。

■歴史ある川岸の岩風呂

 浴室はいたってシンプル。L字型のタイル張りの湯船は、6~7人が入れる大きさ。湯船のほかには、カランが2つあるのみ。ただし、窓が2つあるので、浴室内は明るい印象だ。窓からは、箱根の山々と早川渓谷が見渡せる。なかなかの眺望だ。ここから景色を見ると、太閤湯が崖の上にへばりつくように建っていることがわかる。
 早川の支流・蛇骨川の上流には、太閤湯の名前の由来ともなった「太閤石風呂」という歴史スポットがある。現在は川岸に湯船らしき石が残るのみだが、かつては岩に穴が開いていて、湯が湧き出していたという。
 ちなみに、箱根温泉が広く知られるようになったのは、豊臣秀吉の小田原征伐がきっかけだといわれる。小田原城を攻略するために全国から集められた武士たちは、ここに湧く温泉に入って傷を癒したとか。おそらく秀吉も温泉の効能と魅力に気づいていたのだろう。
 太閤湯の湯船には、透明な湯がなみなみと注がれ、激しくあふれ出していた。同時に、蛇口からは水もじゃぶじゃぶと注がれていた。本来は、加水をすると温泉が薄まってしまうので、できるだけ加水をせずに湯を張るのがマナーである。
 「あぁ、せっかくの温泉がもったいないなあ」と思いながら湯船に手を入れた瞬間、水が常時注がれている理由を察した。源泉がとてつもなく熱いのだ。源泉の注ぎ口に手をあてると、やけどしそうである。それもそのはず、あとで温泉分析書を確認したところ、源泉温度は83℃だった。どうりで熱いはずである。

■汗が止まらなくなる激アツ湯

 おそるおそる湯船に体を沈める。ちょっと歯を食いしばれば、なんとか入れるくらいの熱さ。しかし、3分も浸かっていると、たちまち汗がだらだらと流れ出す。
 太閤湯の源泉は、宮ノ下温泉ではなく、実は隣の底倉温泉から引いてきている。泉質は、ナトリウム-塩化物泉。なめると少し塩分を感じる。山の中の温泉なのに、塩味を感じるというのも不思議だ。塩化物泉という泉質は、体がよく温まることでも知られている。泉温が高いこともあるが、体の芯までポカポカと温まる。
 湯船のふちで休んでいると、観光客らしき若者が1人で浴室に入ってきた。少し戸惑っている様子なので、ここが初めてであることは明らかだ。
 あいかわらず湯船には源泉と水がけっこうな勢いで注がれていたが、若者はなかなか湯船に入れない。片足をつっこむが、我慢できずに、すぐに足を湯船から抜いてしまう。そんなことを何度も繰り返す若者を見かねて、常連らしきおじいさんが、源泉を止め、水の蛇口をマックスまで開いた。
 「ありがとうございます!」と大きな声でお礼を言った若者は、意を決して、なんとか腰まで浸かった。肩まで浸かるには、まだ熱いようだ。体を真っ赤にし、歯を食いしばりながら熱さに耐える姿が、なんともいえず微笑ましかった。

 

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