先日、20年前に賃金制度の整備をされた建設会社の社長とお話していて、賃金表(基本給テーブル)の水準の話になりました。
その会社では、過去のベースアップも含めて、2021年度の県の中位水準(県庁所在地や中核市での中堅企業レベル)をやや上回る水準の賃金表を使っていらっしゃいました。
話の中で、自社の賃金水準についてどう思うかについて、意見を求められましたので、
「賃金表そのものはしっかりとした、他社に見劣りしない水準ですね。でも賃金表が高いとは言っても、それだけでは本当に御社の給与水準が高いどうかは実はわかりません。社員の基本給の実際の分布状況をみない限り、本当の意味での判断はできないんです。」
とお答えしました。
続けて、「例えば、標準昇給図表(グラフ)にプロットしたときに、2等級や3等級の社員が、オールBのラインを挟んでバランスよく分布しているでしょうか?」とお尋ねしました。
※標準昇給図表とは、等級別に社員の基本給の分布状況を示すグラフで、そこに記載されているモデル昇給ラインと比較することで、適正な昇給運用が行われているかどうかが確認できるツール。
その社長は、私が何を言わんとしているか、すぐに気がつかれて、「実は・・・」と説明された内容は次のようなものでした。
「リーマンショックで業績が落ち込んだときに、昇給評語Cの割合を増やしたり、評語Bで4号昇給するところを2~3号昇給に抑制したりといった、人件費抑制策を長年継続してきました。平均的な成績の社員でも、管理職に昇格しない限り、それ以前よりかなり低めかもしれません。」
本来4号上がるところが良くて3号ですから、昇給幅は25%以上のマイナス。つまり、初級職で4,000円上がるところが3,000円、主任職で6,000円上がるところが4,500円。見た目の賃金水準は高めでも、実際よりかなり低い水準の賃金表を使っていたのと同じことになっていた訳です。
賃金管理研究所では、毎年1月下旬に都道府県別モデル本給表を作成し、会員企業を中心に賃金水準を適正に維持していただくために活用いただいておりますが、賃金表の水準比較では運用ルールが正しく守られていることが大前提となります。
適正な運用であったかどうかを判断するには、縦軸に基本給の金額(または号数)を、横軸に社員の年齢をとったグラフ上に、全社員の基本給をプロットしてみることをお勧めします。できれば等級別に行なっていただくのが良いでしょう。
このとき、オールB評価の社員のモデル昇給ラインの下側にびっしりと実在者が集中しているようなら、実際の運用が賃金表の水準に追いついていない、もしくは無理に実力以上の基本給月額表を使っているということに他なりません。その時は、運用ルールを本来の姿に戻すと同時に、実情に合わせた「ベースダウン」を考えた方がよいかもしれません。
また、賃金バランスに歪みを抱えている会社では、管理職になれば所定内賃金の水準は、管理職手当の付与等により高くなるものの、一般社員(非管理職)のままでは賃金水準が一向に伸びないという会社が少なくありません。将来を託すべき優秀社員を定着させるには、将来の昇給が見通せる昇給ルールの確立も急務であるといえましょう。
わが社の賃金表の真の実力水準はどうなのか。本格的な給与改定の時期を迎える前に是非確認してみていただければと思います。