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- 中小企業の新たな法律リスク
- 第28回 『リファラル採用で人材不足解消!?』
昨今の人手不足により、中小企業において優秀な人材を確保するのが難しくなっています。そんな中、従業員の紹介により人材を採用する「リファラル採用」が注目されるようになってきました。ITベンチャー企業を経営する太田社長も、リファラル採用制度を導入しようとしているようです。
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太田社長: 最近は人材不足で、新卒採用も売り手市場なので、なかなか良い人材が確保できません。
賛多弁護士:新卒の学生は、インターン等で大企業に青田買いされてしまいます。また、たとえ優秀な方を中途採用しても、企業文化とのミスマッチなどで容易に転職されてしまいますよね。
太田社長:そこで、当社もリファラル採用制度を導入して、良い人材を確保しようと考えています。まず従業員から当社の業務内容や企業文化を知人等に紹介してもらうことで、当社での仕事に興味を持ってもらえるのではないかと考えています。
賛多弁護士:リファラル採用制度は、米国のIT企業は以前から導入していましたが、日本でも最近色んな企業で導入されるようになりました。社員のインセンティブにもなりますし、企業文化を理解して入社するので、長い期間会社に勤めてくれます。
太田社長:会社としては転職エージェントへの高額な手数料も削減したいところです。すでに従業員が紹介してくれた方と面談をする予定も入っているので、どれ位の報酬を紹介してくれた従業員に支払えば良いのか悩んでいます。
賛多弁護士:そういえば、私が御社の就業規則や給与規程を作成してから、特に変更はされていないですか。
太田社長:そうですね。給与体系はそのままですが、社員紹介料として支給しようかなと考えています。
賛多弁護士:そうすると、法的にはリスクが生じてしまうので、採用前に就業規則や給与規程を変更した方が良いでしょう。
太田社長:そうなのですか?具体的にどんなリスクがありますか?
賛多弁護士:人材を勧誘して会社に紹介をした人に対して紹介料を支払うということですが、これは職業安定法で規制されており、刑事罰が科される可能性があります。ざっくり言えば、人材を紹介して会社から紹介料の支払いを受けることは、本来労働者に給料として支払われるべき会社の資金をピンハネする行為として職業安定法40条で禁じられています。
太田社長:中間搾取はダメという法的規制が、リファラル採用の時のお礼にも及んでしまうのですね。そうしたら、どうすれば法的にも問題ないといえるようになるのですか?
賛多弁護士:就業規則や賃金規程に、人材の紹介という会社の業務遂行に対する賃金(手当)として規定しておく必要があります。また、際限なく人材を紹介できるようにしてしまうと、許可なく「業として」(ビジネスとして)職業紹介をさせていることになり、労働基準法の観点からも問題があります。ですから、「社員紹介手当を支給するのは3人までとする。」などという規程も設けておく必要があるでしょう。
太田社長:支給金額はどの位にしておいたほうがよいですか?
賛多弁護士:相場としては、1人あたり数万円~10万円程度でしょう。あまりに高額にすると組織の公平性を欠くことにもなり、ビジネス上宜しくありません。
太田社長:なるほど、競合他社に勤めている優秀だと評判のエンジニアとの面談が決まっているから、早急に改訂をしなければいけないですね。他にも何か注意することはありませんか?
賛多弁護士:競合他社にお勤めの方なので、度を越えた引き抜き行為は、民法や不正競争防止法上の違法とされることがあります。在籍する企業の悪評を意図的に流したり、虚偽の説明を用いたり、従業員の引抜きによって重要情報を流出させたりするようなことは控えるべきですが、誠実な勧誘行為を行っていれば気にしすぎる必要もないでしょう。
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上記のストーリーと異なりますが、太田社長が従業員に対して手当としてITガジェット(例えばタブレット)を支給したような場合はどうでしょうか。これは、労働基準法24条1項で規定されている「賃金の通貨払いの原則」に反して現物を支給してしまうこととなり、違法となってしまうこととなります。労働法制は労働者保護の要請が色濃く反映されているので、今回取り上げたリファラル採用に限らず、人事労務に関する意思決定をする際には、念のため法的リスクがないかを弁護士に確認することが望ましいでしょう。
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 古橋 翼