上海、無錫出張中の11月11日、中国ではこの日を「独身の日」(中国語では「光棍節」)と呼んでいる。この日は数字の「1」が4つ並び、独身を意味する「光棍」(樹皮を剥いて作られた棍棒。結婚していない、子供も持っていない男性のことを指す)という中国語の表現を連想させることから、こう呼ばれるようになった。
独身の日は、もともと1990年代に学生の間で広まったもので、正式な記念日ではない。だが、2009年11月11日に中国の電子取引最大手のアリババが独身層をターゲットにした大幅値引きのセールを始め、それ以来ほかのネット通販業者も追随するようになった。今では既婚者も含めたあらゆる消費者層にとって1年で最大のネット通販の日となっている。
アリババ傘下のネット通販サイトには、「天猫(Tモール)」と「淘宝網(タオバオ)」があるが、これらを合わせた11月11日の販売額は2009年7億4千万円、10年は約131億円、11年は約728億円、12年は約2,675億円、13年約5,664億円、驚くほど急成長を遂げている。日本のネット通販最大手・楽天の2012年度年間売上4,434億円を考えれば、今年中国アリババの「独身の日」1日の売上は楽天通年の1.3倍弱に相当し、その凄さがわかる。
アリババの報告によると、今年、傘下のサイトを訪れた顧客数は4億200万人で、これは同国総人口の3分の1弱に相当する。インターネット人口は既に7億人を突破し、これは中国ネット通販の市場規模急拡大の原動力となっている。
中国ネット通販の総額は2009~12年の4年間、年平均伸び率が71%にのぼり、同期米国13%増の5.4倍となる。2012年時点で、米国の通年ネット通販総額2,287億ドルに対し、中国は2,124億ドルで世界2位を占めるが、今年は米中逆転が起きる。中国は米国を凌ぎ1位に躍進するのは、ほぼ確実となっている。2015年に5,000億ドル突破も予想されている。
現在、中国のネット通販の総額は中国小売総額の1割を占めるが、「2020年にはネット販売と店舗販売はそれぞれ50%を占めることになる」と、アリババの創業者馬雲氏が大胆な予測をしている。
それではなぜ、中国のネット通販は急成長を遂げているか?
まずは店舗販売に比べ、価格の安さが武器となる。ここ数年、不動産価格の急騰により、店舗の家賃が上昇し、商品の値上げで顧客に価格転嫁せざるを得ない。ネット通販は実店舗が要らず、家賃や人件費などのコストは安い。そのため、大幅値引きすることが可能となる。
2つ目はネットショップでは同類商品の価格比較が可能であり、顧客の選択肢が広く、買い物の喜びを味わえる。
3つ目は利便性。自宅でインターネット操作だけ、店舗に行かなくても買い物ができる。
4つ目は宅配など物流インフラの整備である。ここ数年、物流分野のインフラ整備は急ピッチで進んでおり、ネット通販の急成長の環境づくりができている。
中国ネット通販市場が急拡大する中、実店舗を展開する中国企業も、販売戦略を見直さざるを得ない状況に追い込まれ、ネット上でライバルと競争している。メーカーにとってネット販売は収益の一部ではあるが、伸び率は実店舗の販売を大幅に上回る状況である。例えば、中国家電メーカー最大手の海爾集団(ハイアール)のアリババでの個人向け販売の売上高は13年上半期、前年同期に比べほぼ5倍の伸びとなった。家電量販大手の蘇寧電器も同期のネット販売が2倍増。競争は益々激しくなり、ネット通販市場はアリババや京東商城のような大手に支配されている。
日本の小売企業も参戦している。ファストリーディングのほか、筆者が11月に訪れた湖南平和堂も今年からネット通販を始めた。今後、外資系企業に対する中国政府のネット通販の規制緩和によって、業界の競争激化が必至となろう。日本企業はどれほどの市場シェアを獲得できるかが注目される。