今年6~8月、筆者は中国経済の実態を把握するため、2回にわたり現地調査を実施した。沿海部の北京、天津、上海のみならず、内陸部の重慶市にも行き、景気が悪い遼寧省や河北省にも足を運んだ。今回の現地調査の目的の1つは中国の格差問題の実態把握である。つまり、10年前に比べれば中国の経済格差は本当に拡大しているかそれとも縮小しているかである。
中国の経済格差と言えば、沿海部と内陸部の地域格差、都市部と農村部住民の所得格差、個人収入の貧富格差という3つの格差がある。今回の現地調査を通じて分かってきたのは、実態はマスコミの喧伝と違い、10年前に比べれば上記三大格差はいずれも拡大ではなく、縮小していることだ。
先ず地域格差を見よう。周知の通り、中国の改革・開放は沿海部地域から始まり、5つの経済特区のすべて及び経済開発区の大半は沿海部に集中している。そのため、外国直接投資が沿海部に殺到し、輸出の急拡大も沿海部を中心に進んできた。言い換えれば、沿海部は改革開放の恩恵を最も受けた地域であり、30年以上の高度成長がもたらされたのである。一方、内陸地域は改革・開放が遅れており、沿海部との経済格差が拡大する一方だった。
地域格差という歪みを是正するため、中国政府は2000年以降、「西部大開発」戦略を打ち出し、財政面では地方交付の形で内陸地域に傾斜する方針を取ってきた。結果から見れば、この政策はまずまずの成功を収め、内陸地域の経済成長が加速し、沿海地域との格差拡大に歯止めがかかった。図1に示すように、2005~15年の10年間、全国33大都市GDP増加率ランキングで上位10都市のうち、長沙(4.6倍増)、重慶(4.1倍増)をはじめ内陸地域8都市がランクイン。沿海部は天津(3.5倍で8位)、南京(3倍で10位)2都市しか入選していない。
別のデータからも地域経済格差の縮小傾向が裏付けられている。日本の都道府県に相当する31の省・直轄市・自治区のうち、最も豊かな地域は沿海部の上海市で、最も貧しい地域は内陸部の貴州省である。両者の1人あたりGDPの推移を比較すれば、地域格差が拡大ではなく、縮小している事実が浮き彫りになっている。図2に示す通り、この10年間、上海市の1人当たりGDPは52,535元から103,141元へと、1.96陪拡大したのに対し、貴州省は5,119元から29,847元へと、5.8倍も拡大した。その結果、両者の格差は2005年の10.3倍から15年の3.46倍へと急速に縮小した。
出所) 「第一財経日報」により沈才彬が作成。赤色は沿海部都市。青色は内陸部都市。
出所) 「中国統計年鑑」により沈才彬が作成。
次に都市部と農村部の所得格差を説明する。図3の通り、2005~15年の10年間、中国の都市部住民の1人当たり可処分所得は10,493元から31,790元へと3倍増えたのに対し、農村部住民の1人当たり純所得は3,255元から10,772元へと3.3倍も増えた。言い換えれば、農村部住民の所得伸びは都市部住民より若干速い。その結果、都市部と農村部の所得格差は2005年の3.1倍から2015年のむ2.9倍に縮小している。
出所) 「中国統計年鑑」により沈才彬が作成。
3つ目の格差は貧富格差だが、これも縮小している。貧富の格差を測る指標にはジニ指数がある。0~1で、1に近い方が格差は大きく、逆に0に近い方が格差は小さい。0.4が国際警戒ラインとされる。この数値を超えれば、社会不安定になる恐れがあり、特に注意が要る。図4に示すように、中国のジニ指数は2008年の0.491がピークで、その後、緩やかではあるが、確実に低下し続けている。2015年のジニ指数は0.461となり、08年に比べれば、0.03ポイントが改善されている。ただし、依然と警戒水域にあることに変わりがない。
ちなみにジニ指数の世界平均値は0.395で、最も低い国はスウェーデン(0.23)、最も高い国は南アフリカ(0.61)だ。日本は0.379である。
出所) 中国国家統計局の発表により沈才彬が作成。
要するに、中国の地域格差も所得格差も貧富格差も縮小している。これは習近平政権の経済政策が成長重視から分配重視へシフトすることと関係していると思われる。