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第26話 中国ビジネス成功への道筋―滋賀県平和堂の挑戦―

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 成長減速、人件費上昇、原材料高、人民元切上げ、競争激化など、中国に進出している日系企業は今、厳しい経営環境に直面している。その中、安定的な成長軌道に乗り、成功の果実を味わい始めた日系企業がある。本社を滋賀県に置くスーパー平和堂である。
 
 この平和堂は1994年12月に、滋賀県と友好関係協定を結んでいる中国中部地域の湖南省に進出し、「湖南平和堂実業有限公司」(資本金5000万㌦)を設立した。98年11月に湖南省の省都・長沙市の中心繁華街・五一広場に湖南平和堂本店(五一広場店)を開業。2007年に中国に2店舗目となる湖南平和堂長沙市東塘店を開業、09年に同省株洲市に3店舗目となる湖南平和堂株洲店を開業した。
 
 十数年の努力を重ねた結果、平和堂は今、対中投資の収穫期に入りつつある。2011年度、湖南平和堂は売上350億円、純利益13億円、配当金11億円を日本国内に送金する予定。進出先の中国湖南省への貢献も大きく、現地雇用創出6000人超、2010年までの累計納税額が6億元(約80億円)にのぼり、平和堂は湖南省政府に高く評価され、夏原平次郎会長(2010年他界)が長沙市名誉市民第一号を授けられた。
 
 平和堂はなぜ中国ビジネスの成功を収めたか? その成功の秘訣を探るため、5月上旬、筆者は同社の取引銀行である商工中金の協力を得て、飛行機で湖南省長沙市へ飛び、湖南平和堂実業有限公司総経理(社長)寿谷正潔さんへの取材を実行した。
 
 取材前日の夕方、筆者は湖南平和堂本店を視察した。店の玄関に入ると、日本のスーパーで絶対に見られない風景が目に入る。玄関の近くに高級腕時計ロレックス専門店、ロンジン専門店がずらりと並んでいる。2階に行くと、シャネルなど有名ブランドが見えてくる。
 
 「まさか!ここはスーパーではなく高級百貨店だ。」ところが、平和堂の本業は百貨店経営ではなくスーパーや量販店経営だ。なぜ平和堂は本業のスーパーチェーンではなく、中国で百貨店を開業したか? なぜ日本のスーパーでは想像もつかない、ロレックス、シャネルなど国際有名ブランドの販売をしているか?
なぜ日系企業が集中している沿海地域ではなく、内陸地域の湖南省を選んだか? 一連の疑問が筆者の頭に浮上した。
 
 翌日、寿谷総経理に会うと、さっそく私の素朴な疑問を持ちかけた。寿谷さんは湖南平和堂本店の開業とほぼ同じ時期に日本からやってきた総経理である。数えてみると現地で既に14年も経過し、私の疑問に答えられる最適の人選と言える。
 
 寿谷総経理によれば、平和堂が中国進出を考え始めたのは1990年代初め頃だった。滋賀県と友好関係をもつ湖南省との経済交流がきっかけだ。経済交流が深まる中、当時の湖南省長から「省の発展のため、大型商業施設を出店してほしい」という要請があり、この招請に答える形で、平和堂は中国進出を決めた。「滋賀県と湖南省の友好関係がなければ、平和堂の湖南省進出も中国進出もない筈だ」と寿谷さんは淡々と説明を始めた。
 
 1990年代始め頃は天安門事件の直後であり、中国のカントリーリスクがマスコミに喧伝される時期でもあった。外資が中国から撤退し、もしくは新規投資を見送る雰囲気のなか、平和堂の決断は勇気ある行動と言わざるを得ない。それを決定付けるのは平和堂の創業者、前会長夏原平次郎の並ならぬリーダーシップである。
 
 1993年、平和堂は湖南省進出のため、日本のメガバンク系列の研究所にマーケット調査を依頼した。だが、この研究所から提出された報告書はチャイナ・リスクばかり書いてあり、良い話は一つもなかった。それに加え、社内の経営会議では夏原会長を除く役員全員が中国進出に反対だった。だが、夏原会長の中国進出の決断に揺るぎはなかった。「失敗すれば、俺は骨を中国に埋める」と、不退転の決意を表明したという。
 
 夏原会長の決断に訳がある。彼は軍人出身で、戦前、騎兵隊員として中国戦場に派遣された。日本軍の侵略行為に苦しむ中国人に対する恩返しの願望が強かった。一方、ビジネスの立場にある人間として、夏原会長の中国市場に対するビジネス感覚も抜群だ。日本では10万人の客層あれば、スーパーの商売が十分できるという経験則がある。平和堂の独自の調査によれば、当時、長沙市の人口160万人、所得水準からいえば、平和堂の潜在的客層は約20万人にのぼる。平和堂は長沙市に進出すれば商売ができる筈だ、という会長の読みはしたたかである。「いま、振り返って見れば、当時、会長は本当に正しい決断をしてくれた」と、寿谷総経理の表情は感無量そのものである。
 
 なぜ、平和堂の中国進出は本業のスーパーではなく百貨店なのか? 当初、平和堂が想定した中国進出は量販店のスーパーだった。しかし、当時の中国では量販店の概念さえなかった。湖南省が強く要請したのは大型商業施設、つまり高級百貨店のイメージだ。そこで、平和堂は、「どんな形でどんな品物をお客さんに最も売りやすいか」という徹底調査を実施する。その結果、現地ではスーパーの安い品物と高級百貨店のブランド品の両方にニーズがあることが判明された。それでは平和堂の従来のビジネスモデル(量販店)では現地のニーズに応え切れない。辿りついたのは量販店のスーパーではなく、三越、高島屋、伊勢丹のような高級百貨店でもない。スーパーの安い品物とブランド品の両方を扱う中高級百貨店だ。
現在、湖南平和堂は自社調達商品が2割、テナント商品は8割、価格からいえば量販店扱い商品は5割、ブランド品も5割をそれぞれ占めている。
 
 「形式は重要ではない。重要なのはお客さんのニーズだ。中国のお客さんに買い物の楽しみを味わってもらうことは我々のミッションだ。そのため、どんな形で、どんな品物を一番売りやすいかを常に考え、絶えずにチャレンジしなければならない。場合によっては型破り経営も必要だ」と、寿谷総経理は強調する。
 
 平和堂のチャレンジは今も続いている。今秋に長沙市内に4号店を開業する。さらに、湖北省の武漢市、江西省の南昌市、貴州省の貴陽市にも出店する計画。中国巨大市場のエネルギーを最大限に吸収し、中国人の旺盛な購買意欲を積極手に取り込む平和堂の中国戦略は新たな局面に入ろうとしている。
 
 私は寿谷総経理の説明から中国ビジネス成功への道筋のヒントを得た。それは正に「チャレンジ」と「型破り経営」だ。言い換えれば、日本での成功体験は必ずしも中国でも通用するとは限らない。平和堂のように、日本企業がもっている経営ノウハウを中国市場のニーズと上手く結び付けることができれば、中国ビジネス成功の扉は開ける。

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