◆次世代の中核テクノロジ
過日、北京の友人と面会し、中国のイノベーションについて意見交換した際、「ABCD技術+5G」は特に要注目」と助言を受けた。
「ABCD技術」とはAI(人工知能)、Blockchain(ブロックチェーン)、Cloud(クラウド)、Digital(デジタル)人民元のことで、5Gは次世代通信規格。いずれも次世代の中核技術であり、これらの分野における米中技術覇権の争いは益々熾烈さを増している。
Aの人工知能分野において、中国は既に米国と肩を並び、世界のトップランナーだ。顔認証技術を例にすれば、世界上位5社に中国企業が3社を占める。
Cのクラウド技術については、中国のアリババ、米国のアマゾンとグッグルが世界の最先端を走っている。5G技術については、中国のファーウェイ(華為)が欧米企業を圧倒し独走している。
出所)特許データベ―ス会社・ドイツのIPリティックス2019年3月時点の
統計により沈才彬が作成。
◆前例がない中央政治局勉強会
次はBのブロックチェーンとDのデジタル人民元に焦点を当てる。昨年10月24日、中国共産党政治局第18回勉強会が開催し、テーマは「ブロックチェーン技術発展の現状とその行方」、講師はこの分野の第一人者である浙江大学教授の陳純氏だ。
政治局勉強会は胡錦濤時代の2002年11月より発足したもので、年に8~10回開催される。中国が抱える緊急課題、中国の長期ビジョン、世界の最新情勢などの3つがメーンテーマだ。特定技術に関する勉強会は今回が初で、異例と言わざるを得ない。
習近平国家主席は勉強会総括発言の中で、「ブロックチェーンを核心的技術の自主的イノベーションの突破口と位置づけ、その発展を加速せよ」という大号令を打ち出した。
ブロックチェーンは分散型台帳のこと。ネット上の複数のコンピューターで取引の記録を共有し、互いに監視し合うデータ管理技術だ。過去のデータの書き換えは事実上不可能で、改ざんリスクが低い。「インターネット以来の発明」とされ、既にデジタル金融や物流など基盤インフラへの応用が進んでいる。
先行すれば新サービスや国際金融市場で優位に立つ可能性が高い。中国企業が技術の囲い込みを強め、世界の主導権を握ろうと図っている。現在、ブロックチェーンに関する中国の特許は世界全体の6割を占め、米国の3倍(図2を参照)。企業ベースでは首位のアリババは3位の米IBMの2倍強に相当する(次頁図3を参照)。習近平政権は正にこの分野の覇権を狙っているのだ。
出所)アスタミューゼ。日経朝刊2019年11月21日記事により沈才彬が作成。
出所)日本技術貿易。日経朝刊2019年11月21日記事により沈才彬が作成。
◆米ドル基軸通貨への挑戦
政治局勉強会開催2日後の10月26日、ブロックチェーンのシステム構築には欠かせない「暗号法」が中国の全人代で可決された。さらに2日後の28日、政府系シンクタンクである中国国際経済交流センター副理事長、元重慶市長の黄奇帆氏は講演で、中国人民銀行が「世界で初めてデジタル通貨を発行する中央銀行になる可能性がある」と述べ、その発行技術にはブロックチェーン技術を利用する考えを初めて示した。
デジタル人民元を発行すれば、国内にさまざまなカネの流れを管理し、マネーロンダリング(資金洗浄)を防ぎ、脱税などの抑止に繋げる一方、国際には米ドルの通貨覇権に挑戦する思惑もある。
現在、世界で最も多く使われる通貨は米ドルで国際決済に占める割合は4割強、一方の人民元は僅か2%に過ぎない。現在の仕組みでは、ドルでの取引には必ず米銀行を経由する必要がある。デジタル人民元を使えば、米銀行を通さずに素早く取引を行うことができる。将来的には新興国などでも広く使われ、ドル覇権を脅かす可能性がある。
これまで、米国は対立する国やテロ支援組織にドルを使わせないことで、経済制裁を加えてきたが、ドルの代わりに人民元を使う国が増えれば、その効果が薄れることになりかねない。カーター元米国防長官は「デジタル人民元は中国の経済力を強め、米国の経済力を弱体化させる効果がある」と述べ、米側の強い警戒感を示している。
アメリカの世界覇権は技術力、軍事力、ドル基軸通貨の上に成り立っているが、この3つは今、いずれも中国の挑戦に直面している。 (了)