工作機械メーカーの石川社長が、取引先との会話について、賛多弁護士のところへ質問に来られました。
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石川社長:取引先との雑談で、令和4年4月から、男性育休が義務化されるという話が出たのですが、本当ですか?
私は知らなかったので、その場では適当に話を合わせたのですが、我が社も何か対応の必要があるのか、気になって・・・。
賛多弁護士:男性育休の義務化ですか?
ああ、それは、恐らく、令和3年6月の育児・介護休業法の改正の話をされているのでしょうね。
石川社長:その法改正では、男性従業員は育休を取得することが義務付けられているのですか?
賛多弁護士:いえいえ。
その法改正では、従業員の育休の取得の意向を確認することが義務付けられているのであって、育休の取得自体が義務付けられているのではないのですよ。
石川社長:なんだ、そうなんですね。どうして男性育休の義務化という誤解が生じたんでしょうかね。
賛多弁護士:その法改正は、
①男性版産休制度の創設、
②雇用環境の整備・個別の周知・意向確認の義務付け、
③大企業の育休取得状況公表の義務付け、
④その他、現行の育休取得条件の改正、
を内容としています。
そのため、①と②とが混ざって誤解が生じたのかもしれません。義務付けされているのは、②と③です。
石川社長:なるほど。そういうことですか。今回の法改正によって創設される「①男性版産休制度」とはどういうものですか。
賛多弁護士:「①男性版産休制度」とは、子の出生後8週間以内に最大4週間の休業を取得することができる育児休業の制度です。この休業は2回に分割して取得することもできます。
休業の申し出期間は原則2週間前までとされ(現行の育休制度は1カ月前までに申し出が必要)、労使協定と個別合意があれば、事前に調整した上で休業中に就業することもできます。
柔軟な育休取得の制度を作ることで、男性の育休取得を促進するのが狙いです。こちらは、令和4年10月1日から施行されることになっています。
石川社長:ああ、産前・産後大切にしろ、といいますよね。うちの家内の産後は、実母に手伝ってもらっていました。
でも、【第49回 70歳まで働きたいと言われたら?】でご相談したとおり、今は高年齢者雇用も珍しくないので、働いている父母には手伝いを頼めない若い世代も多いでしょうなあ。
賛多弁護士:仰る通りです。若い世代の父母がまだまだお元気で働いていらっしゃるのとは逆に、晩婚化・高齢出産も増えて、後期高齢者の父母には手伝いを頼めないというケースもありますね。
石川社長:ふむふむ、そういうケースもあるでしょうなあ。「②雇用環境の整備・個別の周知・意向確認の義務付け」、とはどういうものですか。
賛多弁護士:「②雇用環境の整備の義務付け」とは、事業主は、育児休業を取得しやすい雇用環境を整備すること(研修実施や相談窓口設置等が想定されています。)を義務付けられる、というものです。
また、「②個別の周知・意向確認の義務付け」とは、本人または配偶者の、妊娠・出産の申し出をした労働者に対して、事業主は、個別に育休制度等を周知し、育休等の取得意向を確認する措置を講ずること(面談での口頭説明や書面による情報提供等が想定されています。)を義務付けられる、というものです。 こちらは令和4年4月1日から施行されます。
石川社長:おお、これが取引先の話していた義務化の話に違いない。我が社も対応が必要ですよね。
賛多弁護士:はい、「③大企業の育休取得状況公表の義務付け」とは異なり、全ての規模の企業が義務付けられていますので、御社も対応が必要ですね。
詳細については厚生労働省から省令等が出る予定ですので、それらが出次第、御社が何をすれば良いかを具体的にお知らせしますね。
石川社長:ありがとうございます。大変助かります。よろしくお願いします。
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出産・育児等による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするため、上記本文①~④を内容とする育児・介護休業法の改正がなされました(令和3年6月9日公布)。
積水ハウスの「男性育休白書 2021 特別編」(*1)によれば、男性就活生の7割超が育休推進企業を選びたいと回答しています。
育児・介護休業の情報が集約された厚生労働省のHP(*2)や、厚生労働省とイクメンプロジェクトによる「中小企業における取組促進」のための資料(*3)なども存在します。
改正法への対応を検討される際には、どうぞご参考になさってください。
*1 https://www.sekisuihouse.co.jp/company/topics/library/2021/20210907.pdf
*2 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
*3 https://ikumen-project.mhlw.go.jp/company/training/
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 木元 有香