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健康

第29回 「氣力を養う」

社長の「氣」

 「氣力」は自らを動かす力であり、人を動かす力であり、物事を成し遂げる源泉です。
 氣力は必ずしも年齢に関係ありません。若くても無氣力の人もいれば、年をとっても氣力が充実した人もいます。82歳で心身統一合氣道に入門し、94歳になる現在まで稽古を続けている女性がいます。日々、誰かのために精力的に働いておられます。
 氣力は必ずしも健康状態に関係ありません。身体が健康でも無氣力の人もいれば、大きな病を持ちながらも氣力が充実した人もいます。生死に関わる大病を何度も患いながら、それを氣力で乗り越え、8,000メートルの山を無酸素で登頂する男性もいます。現在も日々、心身統一合氣道の稽古を通じて氣力を磨いておられます。
 この「氣力」は何処から生じるのでしょうか。「氣」はバッテリーのように使って消耗するものではありません。「氣」は交流することで初めてその力を得ます。氣を出すことによって新たな氣が入って来て、そこに天地自然との氣の交流が生まれます。氣の交流が活発な状態を「元氣」と言います。
 「氣力」とは氣の交流を活発に維持する力を指します。元々、氣は交流しているのが当たり前ですが、不自然な心の使い方・身体の使い方をすることによって停滞します。
 氣が滞ると心を自由に使えなくなります。それによって様々な不具合が生じます。「氣と心」の関係は「空気と音」の関係に似ています。その空間に空気があることによって、音は周囲に空気の振動として伝わります。心の状態も同じで、そこに氣が通っていることによって、心の状態は周囲に伝わります。
 つまり、経営者・リーダーが「心に強く思う」だけでは伝わらないということです。経営者・リーダーが描く理念やビジョンが周囲に伝わるかどうかは、会社や組織全体に氣が交流しているかどうかで決まります。
 氣の交流そのものに特別な感覚がある訳ではありません。しかし、様々な実感を通じて確認することが出来ます。例えば、「元氣」そのものに特別な感覚はありませんが、「身体が軽い」「食事やお酒が美味しい」など実感を通じて確認することが出来ます。
 氣が交流しているときは、見えている範囲が広く、周囲のことを良く感じ取れています。氣が停滞しているときは、見えている範囲が狭く、周囲のことを全く感じられません。状況把握も正しい判断も出来ない状態になっています。この実感を通して、氣が交流しているかどうか確認することが出来ます。
 特に自分(自社)のことばかり考えているときは氣が完全に滞っています。このようなときに、どうしたら氣が交流するように戻れるかが重要です。すぐに実践出来るのは「氣の呼吸法」です。呼吸を通じて自分自身と外界の交流を再確認することで、また氣が交流するようになります。体調不良のときは氣が欠乏により停滞していますので、「氣圧法」によって氣を補うことで氣の交流が活発になります。
 人によって様々ですが、自然の中に身を置くのも良いかもしれません。現代生活では長時間ノートパソコンやスマートフォンに触れていて、無意識のうちに見えている範囲が狭くなり、周囲のことを感じられなくなっています。自然のなかで過ごすとそれがリセットされることが良くあることです。
 あるいは思い切って、誰かのために働いてみることも良いでしょう。「誰かのために働く」という行為そのものが氣を出すことなので、新たな氣が補給されて、氣の交流が活発になります。精神的に辛いときでも、思い切って誰かのためにと動き出した結果、元氣になった経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
 まとめれば、「氣力」とは、どの様な状況でも氣が活発に交流する状態を持続する力を指します。特に困難や逆境に直面したときに氣力が発揮されます。経営者・リーダーは、「知力」「体力」だけではなく、「氣力」を養うことが重要なのです。
 他方で、教育や訓練によって「氣力」を養うことは極めて難しいものです。本人が自ら求めて養わない限り、外から与えることは出来ません。ゆえに、会社や組織において氣力のある人材を得るには、始めから氣力のある人を採用する必要があります。
 経営者・リーダーを育てるのであれば、氣力のある人を育成候補とすることです。育成において能力を最優先で評価しがちですが、能力は訓練によって向上が期待出来ます。
 しかし、いくら能力があっても氣力がなければ物事は成就しません。人の採用や育成においては、「氣力」という物差しを持つことが重要なのです。

 

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