インボイス制度のモヤモヤを解消する
消費税のインボイス制度が導入されてから1年が経過したが、佐藤社長のみならず、経理の現場ではいまだモヤモヤしていることがあるようで・・・
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佐藤社長:日々、請求書や領収証に基づいて会計帳簿を作成してはいますが、今一度、インボイス制度のポイントを教えてもらえませんか?
賛多弁護士:インボイス制度の導入により、大きく分けて2点ほど見直しが行われました。1点目は、仕入税額控除に係る経過措置の見直しです。適格請求書発行事業者以外の者、すなわち、消費者や免税事業者、適格請求書発行事業者の登録を受けていない課税事業者からの課税仕入れについては、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に限り、仕入税額相当額の一定割合について仕入税額控除を認める経過措置が設けられました。
佐藤社長:仕入税額相当額の80%または50%を控除できる、というものですよね。
賛多弁護士:そのためには、区分記載請求書等保存方式における記載事項に加えて、例えば、個々の取引ごとに「80%控除対象」「免税事業者からの仕入れ」などと記載をすることで、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨の記載をしなければなりません。また、請求書等には区分記載請求書等と同様の必要事項が記載等されていることも必要です。
佐藤社長:まずは、令和8年9月30日までは80%控除ができると理解しておきます。
賛多弁護士:2点目に、書類の交付を受けることが困難な取引については、帳簿の保存のみで仕入税額控除を適用することができます。例えば、税込価額3万円未満の公共交通機関による旅客の運送ですとか、ポストに投函するような郵便切手を対価とする郵便サービス、従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当などです。
佐藤社長:ウチの会社では、「〇〇出張のための3万円未満の鉄道料金」「自動販売機による商品購入」などと帳簿に記載をしています。
賛多弁護士:それはよいことです。なお、判断基準として注意をしなければならないのは、公共交通機関は1回あたりの税込取引金額が3万円未満であること、出張旅費は用務先に直接対価を支払っているものと同視し得るものではないこと、などです。
佐藤社長:「公共交通機関」には、航空機による運送は入らないと聞きました。
賛多弁護士:そのとおりです。また、出張旅費の一部を法人のクレジットカードで決済した場合や会社がホテル代等を直接ホテル等に振り込んだ場合などは、この特例の適用はなく、一定の書類を保存する必要があります。
佐藤社長:そうそう!クレジットカードでの取引についても、注意点を教えて下さい。
賛多弁護士:クレジットカード会社が発行する請求明細書は、カード加盟店がカード利用者に作成、交付する請求書等ではなく、また、インボイス番号の記載もないことから、いわゆるインボイスには該当しないこととなります。ですから、請求明細書をもって経理処理をするだけでは、仕入税額控除はできません。
佐藤社長:ということは、カード加盟店が作成、交付する領収証や請求書を保存しなければならないのですね。
賛多弁護士:はい。ただし、税込仕入価額が1万円未満の取引や、公共交通機関特例などインボイスの保存が不要で仕入税額控除が可能となる取引であれば、その必要はありません。
佐藤社長:ウチの会社ではETCカードも利用していますが、料金所では利用証明書が発行されませんよね。どうすればよいのですか?
賛多弁護士:ETCの利用に係るクレジットカード利用明細書と、「ETC利用照会サービス」からダウンロードした利用証明書、明細書を組み合わせることで、簡易インボイスの記載事項を満たすことになります。なお、ETCパーソナルカードやETCコーポレートカードについては、月に1回発行される請求書や精算書などを保存すればよいと考えます。
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上記のほか、銀行手数料(買手側が振込手数料を差し引いて売手側の口座へ代金を振り込むケース)、家賃支払に係るインボイス、古物商等特例、2割特例、電子インボイス(提供方法と保存方法)など、まだまだ注意すべき取引や取扱いがあります。様々な事例に対応する形で、国税庁が「インボイス制度に関するQ&A」を公表していますので、判断に迷ったらこれらの情報を参考にして下さい。
参照:インボイス制度に関するQ&A目次一覧|国税庁 (nta.go.jp)
以執筆:鳥飼総合法律事務所 税理士 田坂 尚靖