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採用・法律

第9回 『社員がガンになったらどうするの?!』

中小企業の新たな法律リスク

 社員の一人ががんになったと聞いて真っ先に、彼が抜けた穴をどうやって埋めるかで頭が一杯になる社長。でもその前に、やるべきことがあるのです。
 
* * *
 
鈴木社長:体調を崩して入院した中堅の社員が、がんの診断を受けました。これから検査を繰り返した後に手術だそうです。うちのようにギリギリの人数で回しているところでは、一人でも抜けたら仕事は回りません。彼にはかわいそうですが、もう戦力としてあてにできません。代わりを早く採用しなければ……。
 
賛多弁護士:ちょっと待ってください。彼の気持ちは聞いてみましたか?それから、彼の主治医の意見は確認しましたか? 
 
鈴木社長:いや。病気というのはプライバシーでしょ?根掘り葉掘り聞くのも、まずいんじゃないかと思って、詳しくは聞いていません。彼も、「ご迷惑をお掛けしました。もう私のことは気にしないでください。」と言っているそうだから、辞めるつもりかもしれません。
 
賛多弁護士:がんの診断を受けた直後は、ショックもありますし、がんの治療の方に気持ちが向かってしまって、仕事はとても続けられないと思ってしまうことが往々にしてあります。がんの治療や薬はどんどん新しくなっていて、がんは共生する病になりつつあります。彼も、今あせって会社を辞めてしまったら、後で後悔するかもしれませんよ。
 
鈴木社長:そうですか。彼ともっと話をしなければいけませんね。
 
賛多弁護士:そのとおりです。病気にかかわらず彼が働き続けるために会社が協力できることはないか、まずは、じっくりと話し合ってみてください。
 
鈴木社長:もしかして先生、あの島耕作のポスター(注1)のことを仰ってますか?見たことありますよ。えーと、何でしたっけ?「両立…両立…」
 
賛多弁護士:「治療と仕事の両立支援」ですね。
 
鈴木社長:そう、それです。でも、あれは大企業だからできることでしょ?
 
賛多弁護士:両立支援に力を入れている会社は、大企業には限りません。中小企業でも、貴重な人材を確保するために必要であることを理解している会社は、両立支援に積極的に取り組んでいますよ。
 
鈴木社長:確かに、中小企業はどこも、人手不足で苦しんでいます。求人を出しても、なかなか応募がありません。
 
賛多弁護士:今回は彼が申し出てくれたから良かったですが、がんの診断を受けたことを会社に隠したまま、突然、退職してしまう人もいます。
 
鈴木社長:それは、会社として、とても困りますね。こちらを信頼して相談してくれるといいのですが……。ただ、がん治療からの復職は、そう簡単ではないように感じます。
 
賛多弁護士:確かに、御社の就業規則で定めている3か月という休職期間では、がんの種類によっては、復職は難しいかもしれません。ところが、最近の研究(注2)によれば、がんの種類によって差はあるものの、平均すれば、病休開始から180日後まで休職できれば約50%弱が復職し、その際に短時間勤務ができれば復職者は約70%強に及んでいます。さらに、休職を365日後まで延ばせば復職者は60%を超え、その際に短時間勤務が許されれば復職者は80%に及んでいます。このようにして復職に成功すれば、その約50%は5年後も仕事を継続することができています。
 
鈴木社長:そうなんですか!しかし、就業規則の休職期間を超えて彼の休職を認めた場合、他の社員にも認めなければならないことになりませんか?特に、メンタルヘルス不調の社員には、あまり長期にわたる休職を認めたくはないのですが……
 
賛多弁護士:就業規則の休職期間は、社員全員に適用される最低基準ですから、その社員の貢献や能力、病気の種類等の個別の事情によっては、それより長い期間の休職を認めても差し支えありません。ただ、社員数がそれなりに増えたら、就業規則の中に、がんに罹患した社員を対象にした特別な休職制度を別に定めることで、その懸念がなくなるでしょう。
 
鈴木社長:なるほど。そのように就業規則にがん特別規程を制定しておけば、 がんの診断を受けた社員も安心して会社に相談できますね。
 
* * *
治療と仕事の両立支援は、障害者雇用促進法によって中小企業にも義務づけられている「合理的配慮提供義務」そのもの、ないしは、その延長線上にあります。病気に限らず、障害、育児や介護など、様々な制約を抱えている従業員が仕事を続け、その能力を発揮するためには、従業員それぞれとの誠実な対話を通じて、働き方や業務のやり方を柔軟に調整することが肝になります。
 

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 小島健一

 
 
注1:「治療と仕事の両立支援-会長島耕作特別編」(厚生労働省・独立行政法人労働者健康安全機構) https://www.johas.go.jp/Portals/0/data0/sanpo/topics/180521simakousaku.pdf
 
注2:がん患者大規模復職コホート研究(順天堂大学公衆衛生学講座准教授 遠藤源樹)
 

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