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第64回 藤七温泉(岩手県) 標高1400mに湧く天然のジャグジー風呂

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■東日本最高所の一軒宿

 ブクブクブクブク……。私はこの音が苦手だ。日本の温泉施設には、ジェット噴流を発生させるジャグジー風呂が実に多い。いわゆる「泡風呂」「気泡風呂」といわれるものである。
 気泡を含んだ噴流はマッサージ効果があり、リラックスできるという。実際に、ジャグジーのある浴槽は人気があり、気持ちよさそうに浸かっている人をたくさん見る。
 なぜ、ジャグジーが苦手かというと、ひとつは、湯が激しく動きすぎて、じっくりと温泉を楽しむことができないから。私は、できるかぎり長い時間をかけてゆっくりと湯と向き合うのが温泉の理想的な入浴法だと考えている。
 もうひとつは、空気を送り込んだり、湯を循環させたりしているうちに、少なからず温泉の個性が失われてしまうから。温泉はなにも加工していない状態がもっとも鮮度が高いといえる。
そんな私が惚れ込んだジャグジー風呂がひとつだけある。ブナやアオモリトドマツの樹海の中を縫うようにのびる八幡平樹海ライン沿いにある藤七(とうしち)温泉「彩雲荘」は、1400メートルという東日本最高所に湧く一軒宿。岩手山などの山並みを見渡せるロケーションで、運がよければ雲海を拝むこともできるという。

■湯船の底から湧き出す露天風呂

 周囲のゴツゴツとしたガレ場からは水蒸気がいたるところから立ちのぼり、硫黄の香りが漂う。宿の近くには、「太古の息吹」という100℃近い湯がこんこんと湧き出す源泉地帯などもあり、大地の並々ならぬパワーを感じることができる。
 敷地内には男女別の内湯や露天風呂をはじめ10以上の湯船が並ぶが、圧巻なのはガレ場に点在する5つの混浴露天風呂。

 まず、囲いや壁など隠すものは何もない代わりに、手つかずの八幡平の雄大な自然を一望できる。その開放感の下では女性も大胆になるのだろうか、はたまた乳白色の濁り湯だからだろうか、混浴に臆することなく湯浴みを楽しむ女性も多い(女性専用露天風呂もあり)。大自然の中に素っ裸でいると、人間も自然の一部だと謙虚な気持ちになる。
 もうひとつ、5つの露天風呂がすばらしいのは、足元湧出泉であること。つまり、源泉の上に湯船がつくられているので、湧き出した湯を新鮮な状態でいただくことができる。いずれの湯船も乳白色の単純硫黄泉がかけ流しにされており、見た目にも美しいのだが、とくに気に入ったのは、露天風呂の中で最も高い位置にある10人以上が浸かれそうな木造の湯船。
 一般的な足元湧出泉は、1カ所もしくは数カ所から湯がプクプクと湧きあがってくるのが通常で、見た目には湯の動きはあまり感じられない。しかし、この湯船は全体からボコボコと湧きあがってくるので、まるで湯船がぐつぐつと沸騰しているように見える、といっても言い過ぎではない。

■真っ赤に染まる朝焼けも魅力

 適温の湯に体を沈めると、柔らかな感触の気泡が肌をやさしく包み込む。全身に気泡が当たるので少しくすぐったいが、それがまたクセになる気持ちよさだ。まさに「天然のジャグジー」。こんな居心地の良いジャグジーであれば大歓迎である。
 たまたま一緒に居合わせた中年男性が、「なんで電源のない場所に泡風呂があるんだ」と不思議がっていた。こんな勘違いをするくらいに、勢いよく気泡があがってくるのだ。温泉が直接湧き出していることを教えると、「すごい! すごい!」としきりに感動していた。
 なお、彩雲荘は朝焼けが美しい宿としても知られている。天気がよければ、早朝、部屋の中が真っ赤に染まるほどだとか。朝焼けに染まる山々を眺めながら浸かる朝風呂は、どれだけ幻想的だろうか。温泉からだけではなく、太陽からも生きるパワーをもらえるに違いない。

 

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