預貯金等照会業務のデジタル化サービス「pipitLINQ」(注1)の運用開始と拡大について書いてきましたが、
それが、どんなものなのかをもう一度おさらいしておきます。
税務署・自治体などは今まで郵送による照会や、金融機関への立ち入りなどによって 預金者の口座情報を得ていましたが、
その事務処理が双方にとって、とりわけ金融機関にとって負担となり、預貯金がどのように動いているのか、現在はどうなのかをデジタルで簡単に確認するために 2019年から預貯金等照会業務のデジタル化サービス「pipitLINQ」(注1)の運用が始まったのです。
このシステムによる調査の法的根拠は下記で、税金滞納処分の必要のための質問検査権(注2、国税徴収法141条)、税に関する調査が必要なとき(注3、国税通則法74条の2第1項第2号、第3号。74条の3第1項第1号)に利用できるものです。
「pipitLINQ」の運用をイメージ
このシステムが効果を発揮するのは、税金滞納者の預金差押え、資産家死亡後の相続税の追求、脱税の監視などですが、今回はこのシステムによって、税金滞納者がどのように追い詰められていくのかを説明します。地方税においても国税においても、納税者が税金を滞納し一定条件にあてはまれば、その財産を差押えなければならないとあります。
今までは所有不動産の差押えが主に行われてきましたが、このシステムによって預金の差押えも、よりひんぱんにおこなわれるようになると思われます。
借入金のような債務の差押えの場合、支払督促、裁判による債務名義の取得などをへて差押えができるのですが、納税等の滞納の場合は、督促は必要なものの、多くの手続をへることなくできてしまいます。
ある日、突然、金融機関の店舗に下記のような債権差押調書(謄本)が送られてきて、金融機関側は送達日時での対象預金口座を支払い停止にして、その残高を別預かり(別段預金)に振り替えます。支払い停止にするだけの金融機関もなかにはありますが、預金者には連絡がいくわけもないので、預金者は預金残高の急激な減少や自動振替の引き落としがないことなどで、差押えの事実を知ることになります。
よく誤解されることですが、差押えの効力は差押え時点での1回限りです。差押え履行日時にその口座にあった預金残高しか差押えはできないのです。そして、もうひとつ誤解をうけやすいこととしては、その差押えによって口座が必ず使えなくなるわけではありません。
税務署・自治体側が預金残高の多い日をみきわめて差押えしてくることはできないだろうから、それほどこわいことではないと思う人も多いのですが、「pipitLINQ」の運用によってその常識がくつがえされようとしています。
「pipitLINQ」はいちいち照会書を金融機関に送って残高を確かめる今までのやり方と違い、デジタルで確認できるものなので、預金残高の把握もしやすいのです。その結果、預金残高の多い日に差押えということも可能になります。
さらに、こわいのは、上記、債権差押調書(謄本)の赤線部分のように履行期限を「当初の指定する日」と指定できることです。
このような債権差押調書が届いた場合、金融機関によっては支払い停止の注意コードをその段階で設定し、それ以降、差押えが実行終了するまで支払い停止とするところもあるのです。
これによって、事実上預金口座が使えなくなり、その口座が当座預金なら手形の不渡り、銀行取引停止処分、そして倒産まで急展開となります。
そして、このような預金差押えの預金者がその金融機関にとっての債務者であった場合、新規融資の停止はもちろんのこと、期限の利益喪失、借入金の全額即時返済要求にいたることもあるのです。
税金の滞納者としては、これが行われた場合、他の金融機関の預金は大丈夫だろうかと不安になります。
ところが、このシステムによって徴税者側は、預金を掌握することととなり、住所地、勤務地近くの預金口座の多くは監視されることになります。さらに、一定の場合を除いては遠隔地の金融機関店舗に預金口座を作ることは難しく、複数の銀行の預金口座を差押えられた段階で、滞納者は精神的においこまれていくのです。
滞納者が法人の場合、どこの銀行、支店に預金口座をもっているかは、申告書の勘定科目内訳明細書ですぐにばれます。それらをひとつひとつ、つぶされていけば事業じたいができなくなるものです。
税金は絶対に滞納しないほうがいいのですが、それができなくなることも多いものです。法人や個人事業主なら売上とか利益とかだけでなく、その行動によって税負担がどのように変化するかを考えながら経営していかないと生き残れない時代になりつつあるように思えてなりません。
(注1)pipitLINQ
(注2)国税徴収法141条
(質問及び検査)
国税徴収法第百四十一条
徴収職員は、滞納処分のため滞納者の財産を調査する必要があるときは、その必要と認められる範囲内において、次に掲げる者に質問し、又はその者の財産に関する帳簿書類(その作成又は保存に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)の作成又は保存がされている場合における当該電磁的記録を含む。第百四十六条の二及び第百八十八条第二号において同じ。)を検査することができる。
一 滞納者
二 滞納者の財産を占有する第三者及びこれを占有していると認めるに足りる相当の理由がある第三者
三 滞納者に対し債権若しくは債務があり、又は滞納者から財産を取得したと認めるに足りる相当の理由がある者
四 滞納者が株主又は出資者である法人